しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第10回「お久しぶり!水原野球場 9/17 SKワイバーンズ対現代ユニコーンズ@水原野球場」

昨年(2002年)は9月に1997年以来のメジャーリーグ観戦を決行し、韓国プロ野球を見に行く機会もなく、ク・デソン投手の話題で時間を稼いでいたのだが、今回は正真正銘の韓国プロ野球レポートをお送りする。
関空を飛び立った飛行機が14時半頃に着陸。またまた韓国に帰ってきた。試合開始は18時半。ソウル市内のホテルでトランクを置いてから、早速、水原野球場の首位を走る。現代ユニコーンズとプレーオフ進出のため4位を死守したいSKワイバーンズの試合を見に行くことにする。
今回のホテルはソウルの安ホテル「Rホテル」。衣料品のショッピングモール「メサ」と南山タワーの間。良く言えば「明洞のはずれ」である。周りは少しボロいか怪しい雰囲気の旅館がちらほらあるが、決して危ないところではない。そんなところである。チェックインするとベルボーイが日本語で囁く。「お兄さん、良い遊びあるよ。システムは日本のXXXランドみたいな豪華な店でアカスリもXXXも全てコミコミ。なんとXXXXXウォンで・・・」
そんなベルボーイの申し出を丁重に断り、韓国語で
今から水原へ現代ユニコーンズの試合を見に行くんだけど、どうやって行くのが良い?」 と聞いてみた。
「プロ野球?今日はサッカーの韓−日戦に行きたいというお客さんは居たけど、野球?しかも水原まで?ホテルの前にある駅は地下鉄4号線の会賢駅。どこかで1号線に乗り換えなきゃいけないけど、ソウル駅よりも衿井駅で乗り換える方が人が少なくて良いでしょう。時間は一時間程度で水原駅に着くでしょう。そこから球場までの時間はわかりませんが・・・。」
と韓国語で教えてくれた。礼を言うと、ベルボーイはまた日本語に戻る。
「それより、さっきの話。カワイイ娘居るよ。気が向いたら内線*番をダイヤルして下さい。」さっきからのやり取りを見ていた同行の友人二人は噴き出した(友人たちは日本語しかわからない)。
教えてもらった方法で球場へ向かう。地下鉄の車内は郊外向けの電車なので通勤通学列車という雰囲気である。中には日本語のテキストを持っている若い女性もちらほら。さっきのホテルのベルボーイを話題にするのは止めた方が良いようなので、友人とスポーツ新聞で先発投手をチェックすることにする。すると、現代はチョン・ミンテ投手ではないか。もともと韓国を代表する投手だったが、昨年まで日本の読売に所属。アメリカ人選手との外国人選手枠争いのおかげで登板機会が与えられずに韓国球界に復帰したが、他のチームであれば十分にチャンスが貰えたはずである。そんなことを考えつつガタゴトと地下鉄と国鉄に揺られること約一時間。水原駅に到着する。
駅に到着すると2000年に来たときから風景が一変していた。地下の改札口が新しく出来ているし、ダンキンドーナツ、書店、そして百貨店まで出来ているではないか。おかげで降りる駅を間違えたかと思ったほどである。そんな新しい水原駅に戸惑いつつもタクシーを捕まえることにした。時計の針は18時15分を過ぎた。プレイボールに間に合わないことは確実だが、早く球場に到着したい。
タクシーを捕まえた。50歳くらいの人懐っこそうな運転手さんに
「野球場まで」 と言うと
「現代の試合か?」 と聞かれ、
「勿論」 と答える。
「早く乗りなよ」
「現代の試合を観に水原まで来たんだ」
「君達、ソウルの人間かい?」
「いや、日本から来たんだ」
「日本からかい?本当に!韓国語上手いな」
「そんなことないですよ。会社が某韓国財閥だから」
「そう。でも今日は君の会社のチームの試合じゃないぞ」
「半導体はウチの会社が良いけど、野球は現代ですよ」
「そうかそうか。うれしいな。だけど、今日はソウルでは韓国と日本のサッカーの試合もあるのに、日本からわざわざユニコーンズの応援に来るとは驚いたね」
いつものやり方であるのだが、ホームタウンではホームチームのファンだと言うと、だいたいどの町でもタクシー運転手さんはご機嫌である(過去のレポート参照)。
「俺はずっと子供の頃から水原に住んでてね。野球は当然、現代ユニコーンズだよ」
「でも、現代は水原で人気がないんですよね。強いのに」
「その通りだよ。でも人気がないのもわかるんだ。現代グループはソウルにフランチャイズを移したくて仕方がないと、ことあるごとに会社のお偉方も言っててね。LGなんかは球団もマーケティングに力を入れて、メディアへの露出も意識しているし、ファンサービスだって良い。だから人気があるんだ。でも、現代は会社には金があるはずなのに、球場には大型スクリーンをつけないし、ファンサービスも考えていない。水原の人間もサッカー好きで野球は好きではないなんて言われているけど、そんなのは嘘さ。野球だって好きなんだ。そこを現代の連中はわかってない。そんな姿勢ではソウルに行ったところで客は来ないさ。」
「そうなんですか。残念な話です」
「だけど、今夜はユニコーンズを熱心に応援してくれよ。なんせ今日はエースのチョン・ミンテが投げる。俺はテレビの前でサッカーと野球でチャンネルを交互に回し続けてるだろうけど。はっはっは。」
「わかりました。ユニコーンズが勝つように応援しますよ」
「さぁ、球場に着いた。ここがユニフォームなんかを売っている売店。その先のチケット売り場の前で降ろしてやろう。そうそう、帰りは水原駅ではなく華西駅から帰ると良いぞ。時間は水原駅だと30分弱だけど、華西駅までは20分もかからないはずだ。ソウル行きの電車は11時半くらいまであるはずだから、試合は最後まで見てもソウルまで帰ることが出来るよ。」
「丁寧にありがとうございます。以前、華西駅はタクシーが少ないと聞いたのだけど、来るときも華西駅からの方が良いんですか?」
「あの駅もタクシーは多いよ。次に来るときは華西駅から来ると良い。そうすれば、今日も試合開始に間に合ったかも知れん。さぁ、早く行って楽しんでくれ」
運転手さんに促され、チケット売り場へ急ぐ。
チケット売り場に行くと、今年から各球場によって料金が変わっていることに気付く。
特別指定席 10000ウォン
指定席 8000ウォン
内野席 5000ウォン
外野席 3000ウォン
今まではKBO(韓国野球委員会)の規制で一般席と指定席の2種類しかなかったのだが、今年から各球団に料金設定が任されるようになったので、各球場では日本と同じようにチケットの種類が増えたようである。私達は特別指定席を購入した。
続いてグッズ売り場ものぞく。ユニフォームが30000ウォン、帽子が10000ウォン、ユニコーンのぬいぐるみ3000ウォンを早速、購入する。3000ウォンのフォトボールは売り場のお姉さんに人気がある選手を教えてもらってから買うことにした。
「人気がある選手はシム・ジョンス選手ね。今年もホームランをたくさん打ってるのよ。今日も打つかもしれないわよ。」
そのシム・ジョンス選手のボールも買って、スタンドへ向かう。時折、聞こえる歓声が足を急がせる。
入口を入ると首からカードをかけられる。聞いてみると、指定席のスタンドから売店に行くには一度、外に出なければならないので、出るときと入るときにこのカードを見せる必要があるのだという。なるほど、指定席の入口は、入るとトイレとスタンドにつながる階段しかない。その階段を上ると、内外野に張り巡らされた天然芝がナイター照明に照らされて美しく輝いている。座席はテーブル付き。昔の西宮球場のようである。さすがは一番高い「特別指定席」である。場所はネット裏のユニコーンズのダッグアウト寄り。隣は、球団関係者席と記者席である。
スコアボードを見るとちょうど一回の表裏が終わったところである。マウンドにはチョン・ミンテ投手。初回に2点を先制されたようである。2回のピッチングもやはり調子が悪いように見受けられる。それよりも目に付いたのがユニコーンズの守備の拙さ。それも集中力を持ってやればないような手抜きが多い。この日だけを見ればとても首位チームとは思えない守備である。例えばこんなシーンがあった。1点差しかない場面、1アウトでランナーが1塁にいて、打球が三遊間の深いところに飛んだ。遊撃手が何とかボールに追いつく。ランナーは2塁に楽々と到達している。遊撃手は打球に追いついたらすぐにランナーを3塁に行かせないようにけん制するかボールを持って内野に走って帰ってくるのが基本である。しかし、この日のパク・ジンマン遊撃手はボールに追いついた余韻を楽しむかのようにファウルゾーンまで走り抜けてしまった。ランナーが輪をかけてボーンヘッドで2塁ベース上で立ち止まっていたから良かったものの、下手すればランナー1、3塁である。パク・ジンマン選手はかつて国家代表だったくらいの選手である。韓国プロ野球を見ていると時々、このような手抜きを目にする。技術は年々、向上しているが、このようなプロ意識に欠けるプレーを少なくしていくことが必要だと思う。
その後、試合はユニコーンズ打線が反撃し、ワイバーンズも1点返して4対3。ユニコーンズがリード。チョン・ミンテ投手は毎回のようにランナーを背負うもののリードを保ってマウンドを降りる。勝利投手の権利は一応確保したが、内容は見るべきものがなかったといったところである。はっきりいうと、この試合の内容は見るべきところが少なかった。なので、自ずと関心は食べ物とファンサービスに向けられる。
食べ物の売店は1塁側の一般席入口を入ったところにある。指定席からは一度外に出て左に5mほど先である。ハンバーガーチェーンの「Popayes(現地発音ではパパイズ)」の小さなスタンドと海苔巻きや飲み物を売っている売店とキャラクターグッズの店がある。ハンバーガーは2500ウォン、チキン4000ウォン。海苔巻きは1500ウォン、飲み物が1000ウォンである。味は球場としては合格。少なくとも甲子園球場よりはましであるが及第点ギリギリである。まだまだ企業努力を望みたいところだが、如何せん客が少ない。なにしろこの日の観衆が785人である。平日ナイターでソウルではサッカーの韓国-日本戦があるとはいえ、首位チームのエースが出てくる試合である。水原のファンには前述の心中複雑なものがあるにせよ、寂しいものである。
我々がパパイズのハンバーガーを食べ終わったころ、宅配ピザの配達バイトらしき青年がピザの箱を抱えてスタンドにやって来た。私たちの後方では若い女性3人組が手を上げて「ここよー!!」と叫ぶ。携帯電話でピザの配達を頼んだらしい。日本の球場でもアメリカの球場でもこんな荒業は見たことが無い。球場側もよく配達の青年をスタンドまで入れたものである。女の子たちはお金を払い「配達、ご苦労さん」なんて言いながらきゃっきゃとピザに噛り付いていた。日本でも売店のメニューが高くて不味いところでは良いアイデアかも知れない。「甲子園の食べ物は不味いが、あの球団は商売にはうるさいので無理だろう」「狙いは千葉マリンスタジアムが良いんじゃない?」なんて話を友人としながら試合は終盤を迎える。
7回裏のユニコーンズ攻撃前である。場内アナウンスが「今日はエビアンデーです。皆さんにはエビアンをプレゼントします」と告げて、ユニコーンズのマスコットがエビアンのペットボトルを配り始めた。配るというよりも投げているという感じだが、水の入ったペットボトルである。少々危ないが、観衆は楽しそうに取り合いをしている。我々の席にもやってきてエビアンをくれた。先着プレゼントではなく、試合の途中でスタンドで配るのも面白いファンサービスである。配りに来たユニコーンズのマスコット君とは記念撮影もした。隣で肩を組むと少々汗臭い。体育会の部室のような臭いである。マスコット君に「今日は暑いけどお疲れさん」と声をかけると頭を軽く下げた。この日はプレイボールに間に合わなかったのでスコアカードも付けていない。試合はそっちのけである。
結局、試合はユニコーンズが2人の投手で継投して逃げ切り。シム・ジョンス選手のホームランもなし。ユニコーンズファンのタクシーの運転手さん、宅配ピザとエビアンが印象的な「復帰戦」でありました。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2003-11-03

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