コリアン・フード・コラムニストの旨旅レポ(3)~忠清北道忠州編

忠清北道の最強グルメはキジ料理のフルコース

忠州では名物のキジ料理をずらりフルコースで味わえる

忠州では名物のキジ料理をずらりフルコースで味わえる


アンニョンハセヨ、K・F・Cこと、コリアン・フード・コラムニストの八田靖史です。忠清北道の旨旅レポ、第3弾は忠州(チュンジュ)編。忠清北道とは、かつての忠清道を南北(位置的には東西ですが)に分けた名前ですが、その由来は「忠」州、「清」州という2地域から取られています。すなわち道庁所在地の清州とともに、忠州は忠清道の中心(むしろ筆頭!)。地域を象徴する歴史的なスポットが目白押しなのです。話のメインは名物のキジ料理ですが、まずは歴史的な話題からお付き合いください。

■忠清道の中心は忠州である

新羅、百済、高句麗の三国が覇権を争った歴史が見える

新羅、百済、高句麗の三国が覇権を争った歴史が見える


忠州でまず見ていただきたいのが、こちらの忠州高句麗碑(国宝第205号)。旨旅レポ(1)でも書きましたが、忠清北道は4~7世紀頃に新羅、百済、高句麗の三国が争った地域です。忠州も当初は百済の勢力下にありましたが、5世紀になると高句麗が北から勢力を広げ、この地域の山城をどんどん攻略していきました。そんな高句麗の威光を示すために建てられたのがこの石碑。現在は展示館内にありまして、地域の歴史を学びつつ見学できるようになっています。
忠州の支配者は百済、高句麗、新羅の順に入れ替わった

忠州の支配者は百済、高句麗、新羅の順に入れ替わった


忠州高句麗碑から離れること直線距離にして2km。車で10分足らずのところに、このすらりとした美しい石塔が立っています。正式名称を忠州塔坪里七層石塔(国宝第6号)と呼び、これは三国を統一した新羅によって建てられたもの。新羅は統一後に全国を9つの州に分け、5つの小京(副都)を置きましたが、その中でも東西南北の中心とされたのが中原京こと現在の忠州です。国の真ん中に置いた石塔ということで、この七層石塔を中央塔とも呼びます。
忠州博物館では時代ごとの郷土史を学ぶことができる

忠州博物館では時代ごとの郷土史を学ぶことができる

中央塔のそばには忠州博物館があります。忠州の歴史的な重要性を掘り下げて知りたい方は足を運んでみてください。余談ですが、中央塔の近くには美味しいマッククス(冷やしそば)の専門店もあります(店名はメミルマダン)。単にマッククスが美味しいだけでなく、そば粉の衣を用いたフライドチキンとセットにして食べるという、一風変わったスタイルが有名なお店です。

■キジ料理のフルコースを味わう

「大将軍」では社長自ら料理の説明を丁寧にしてくれる

「大将軍」では社長自ら料理の説明を丁寧にしてくれる


さて、歴史的な魅力を駆け足で紹介した後は、ワタクシK・F・Cが考える忠清北道の最強グルメ。忠州名物のキジ料理を語りたいと思います。エリアとしては忠州の南部。全国的にも有名な水安堡温泉(スアンボオンチョン)一帯は、1980年代以降、地域の名物としてキジをアピールしてきました。クォンシャブシャブというキジ肉のしゃぶしゃぶが一般的ですが、温泉街から少し離れた「大将軍(テジャングン)」では、なんとキジ料理のフルコースが味わえます。
クォンフェ。生が苦手という人は湯引きでも味わえる

クォンフェ。生が苦手という人は湯引きでも味わえる

「大将軍」が特別なのは、飲食店でありながらキジの飼育も自ら行っているという点。そのため極めて鮮度管理が重要な、クォンフェ(キジ肉の刺身)を味わうことができます。必ずその日にさばいたキジでなければならないため、事前に予約が必要なのはもちろんのこと、そのキジを無駄なく使うため注文もコースだけに限定されています。全8品のAコースが1人前4万ウォン、全6品のBコースが1人前3万ウォン(注文は2名以上から)。
鮮度が重要なのでできるだけ素早く味わうことを推奨

鮮度が重要なのでできるだけ素早く味わうことを推奨


刺身にするのは胸肉の柔らかな部位。ワサビ醤油で食べると、最初はマグロの赤身かとも思いがちですが、最後にほんのりと鳥の風味が残ります。脂はほとんどありませんが、淡泊な中にも艶めかしさがあり、つい後をひく絶妙なコクもあり。いろいろな魚と比較してもこれだけ気品にあふれる刺身はそうないのではないだろうか、と思えるほどに極めて澄み切った味わいの一品です。
各部位の特性を活かしつつ余すことなく料理に仕立てる

各部位の特性を活かしつつ余すことなく料理に仕立てる


コースは引き続いて、胸肉の細切りと生野菜と和えたクォンセンチェ。胸肉の刺身を酢飯に載せ、忠州の特産品であるリンゴのスライスを忍ばせたクォンチョバプ(キジ寿司)。そぼろ状に叩いたひき肉を3種の山菜(シラヤマギク、ミツバ、山ゼリ)と合わせたクォンサンナムルジョン(キジ肉と山菜のチヂミ)。もっちりとした皮とシャキッとした野菜の食感が対照的なクォンマンドゥ(キジ餃子)。
見た目からも丁寧にひと串ずつ作られているのがわかる

見た目からも丁寧にひと串ずつ作られているのがわかる


出てくる料理はいずれも手をかけたもので、素材への愛情がひしひしと伝わってくるようですが、その中でもいっそう細かな作業でできているのがクォンコチ(キジの串焼き)です。丁寧に切り揃えたモモ肉、タマネギ、葉ネギ、シイタケに銀杏を加えてありますが、それぞれの食感がまるで異なるため、ジューシーさと賑やかさが同時に迫りくる驚きがあります。なのでひと串を必ずひと口で食べるというのが鉄の掟ですね。
ブロッコリー、栗、カボチャを練り込んだ3色すいとん

ブロッコリー、栗、カボチャを練り込んだ3色すいとん


手羽、モモ、砂肝をどっさりの野菜と炒めたクォンプルコギ(キジ焼肉)が出たら、最後はキジのスープで味わうクォンスジェビ(キジすいとん)で仕上げ。その一滴までをもたいらげる頃には、素材を知り尽くした店だからこそ成しうる、キジ尽くしの世界に酔いしれていることでしょう。ええ、少なくともワタクシK・F・Cはどっぷり浸りました。見どころの多い忠州においても、絶対に外して欲しくない1軒。きっと忠州という町が特別なものとして強く印象に残るはずです。

■□■お店データ■□■
大将軍(대장군)
忠清北道忠州市水安堡面弥勒宋渓路105
충청북도 충주시 수안보면 미륵송계로 105
043-846-1757
八田靖史(はったやすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『目からウロコのハングル練習帳』(学研)、『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品! ぶっちぎり108料理』(三五館)、『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』(三五館)ほか多数。最新刊は2017年8月刊行の『イラストでわかる はじめてのハングル』(高橋書店)ウェブサイト「韓食生活」を運営。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2018-08-29

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