コリアン・フード・コラムニストの旨旅レポ(4)~忠清北道堤川編

食べずに帰れない地元民熱烈推薦のグルメ3品

清風湖周辺に清風文化財団地やモノレールなどが集まる

清風湖周辺に清風文化財団地やモノレールなどが集まる

アンニョンハセヨ、K・F・Cこと、コリアン・フード・コラムニストの八田靖史です。忠清北道の旨旅レポ、第4弾は堤川(チェチョン)編。今回紹介する堤川という地域は、忠清北道の中でも自然豊かで風光明媚な土地柄として知られます。北部に車嶺山脈、南部に小白山脈がそびえる山に囲まれた地形であり、隣接する忠州(チュンジュ)との間には人工湖の清風湖(チョンプンホ、忠州では忠州湖と呼ぶ)がまたがっています。これら一帯には観光施設やリゾートホテルが集まっており、ソウルなどからもたくさんの人が自然を漫喫しにやってくる地域です。

■見どころも食べどころも満載


体験型の観光施設も多いのでファミリー層の人気が高い

体験型の観光施設も多いのでファミリー層の人気が高い

もし観光メインで訪れるのなら、急勾配の山林を走る観光モノレールに乗ってみたり、貴重な文化財を移築してまとめた清風文化団地を訪ねるというのがまず定番。個人的には韓紙工房の「高麗清風韓紙展示館・体験館」や、民俗信仰の象徴であるソッテ(竿につけた木彫りの鳥)を制作する「綾江ソッテ文化空間」も熱烈におすすめしたいスポットです。あれこれと見るところ遊ぶところがたくさんあり、かつご当地グルメも充実しているのが堤川です。
堤川を代表する薬草料理の専門店「テボミョンガ」

堤川を代表する薬草料理の専門店「テボミョンガ」

そんな堤川における食の特色として、まずお伝えしたいのが「薬菜楽(ヤクチェラク)」という単語。読んで字のごとく、「薬」になる野「菜」を「楽」しむという意味の造語なのですが、堤川には古くから韓方材の名産地、集散地として栄えた歴史があります。堤川ではこうした韓方材のことを「薬草(ヤクチョ)」と呼び、日々の健康に役立てるとともに、美味しい食材としても活用してきました。そんな薬草料理を堤川においていち早く飲食店として手掛けたのがこちらの「テボミョンガ」です。
店舗裏手の畑では店主らが丹精込めて農作業を行う

店舗裏手の畑では店主らが丹精込めて農作業を行う

堤川を地元とする兄妹、幼馴染の3人が共同のオーナー。地域で古くから親しまれてきた薬草料理を柱としながら、「自然のものを食べるよさを伝えたい」とのコンセプトで開いたそうです。店のすぐ裏が広大な畑になっており、ここで3人のオーナーがさまざまな葉野菜、薬草類を栽培しています。安心できる食材であるのはもちろん、鮮度も抜群です。
男性向けの薬草釜飯。女性向けと比べて白っぽい色合い

男性向けの薬草釜飯。女性向けと比べて白っぽい色合い

自慢とするのは薬草を煎じた水で炊く薬草釜飯。男女で薬草の配合を変えているのが特徴で、男性の場合は高麗人参をはじめとする8種類、女性は当帰をはじめとする8種類をそれぞれ4時間煮込んだ水を使用します。釜飯が炊き上がるまで時間がかかるため、事前に男女何人で行くかを連絡しておくことをおすすめします。
堤川薬草パプサン。女性向けの薬草釜飯はやや甘い香り

堤川薬草パプサン。女性向けの薬草釜飯はやや甘い香り

この薬草釜飯にテーブルいっぱいの薬草料理を添えた、堤川薬草パプサン(1人前W1万5000)が基本のメニュー。人数が多い場合は、韓牛をハンバーグ状に叩いて焼いた堤川薬草トッカルビ(W2万2000)や、たっぷりの山菜とキノコを牛肉と鍋に仕立てた堤川薬草チェンバン(W6万)を追加するのもおすすめです。なお、「テボミョンガ」はソウルの城北区水踰洞にも支店がありますので、堤川まで繰り出すのはちょっとという方はそちらを目指してみるのもいいかもしれません。
さて、もうひとつ堤川で欠かせないグルメといえばパルガンオデン。直訳すると「赤いおでん」という意味になり、コチュジャンベースのタレで煮込んだピリ辛のオデン(練り物を串に刺したもの)を指します。堤川中央市場の付近に専門店が集まっており、トッポッキ(甘辛の餅炒め)やティギム(天ぷら)などと並んで販売されています。真っ赤な煮汁に浸った姿はいかにも辛そうですが、辛さの中にも甘味があって、練り物の風味をよく引き立てています。
メガボックス近くの「ポグムジャリ パルガンオデン」

メガボックス近くの「ポグムジャリ パルガンオデン」

堤川のソウルフードであるため、人によってそれぞれお気に入りの店があるようですが、その中でも地元で熱烈に推薦されたのがこちらの「ポグムジャリ パルガンオデン」。店頭でさっと食べていく人も多いですが、中には座れる席もありますので、ゆったり楽しむのもよいかと思います。営業時間が朝6時20分から深夜1時30分までと長時間なので、どのタイミングでもふらりと立ち寄れるのがまた嬉しいところですね。
チャプサルトク(手前)とあんこなしのリングドーナツ

チャプサルトク(手前)とあんこなしのリングドーナツ

そして、もうひとつ。地元の方から食べずに帰るなと薦められたのが「トンシル粉食」のチャプサルトク(大福)ともち米ドーナツ。おばあちゃんの時代から3代続く地元密着の人気店で、釜炊きの自家製あんこを含め、すべて手作業で作っているのが自慢です。ひとつ食べれば素材のよさと、丁寧な仕事ぶりが伝わってくるはず。あんこの甘さも控えめなので、ついパクパクと手が止まらなくなること間違いなしです。
「トンシル粉食」。隣接してイートインスペースもある

「トンシル粉食」。隣接してイートインスペースもある

もち米ドーナツは写真のリングドーナツ(あんこなし)のほか、丸いパンドーナツ(あんこ入り)の2種類があり、チャプサルトクも含めて1個W700とたいへん良心的な価格。チャプサルトクは朝8時からの販売。ドーナツは10時30からの販売とのことですが、いずれも夕方には品切れ御免となりますので、ぜひ時間には余裕を持って足を運んでみてください。これを食べにまた堤川へ来なければならない。そう思える味わいでした。

場所データ

高麗清風韓紙展示館・体験館(고려청풍한지전시관 체험관)
忠清北道堤川市清風面文化財キル167-14
충청북도 제천시 청풍면 문화재길 167-14
010-9088-0790

綾江ソッテ文化空間(능강솟대문화공간)
忠清北道堤川市水山面玉筍峰路1100
충청북도 제천시 수산면 옥순봉로 1100
043-653-6160
八田靖史(はったやすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『目からウロコのハングル練習帳』(学研)、『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品! ぶっちぎり108料理』(三五館)、『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』(三五館)ほか多数。最新刊は2017年8月刊行の『イラストでわかる はじめてのハングル』(高橋書店)ウェブサイト「韓食生活」を運営。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2018-10-30

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