しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第3回「2001韓国野球観戦記(1)」

9月1日(土)晴れ
斗山ベアーズ対SKワイバーンズ@ソウル・チャムシル野球場
今年もソウルに帰ってきたんである。天気は晴れ。この日は東大門からタクシーで球場に行ったので、地下鉄総合運動場駅の階段で海苔巻き売りのおばさんに会わなかったが、海苔巻きの値段を確認しなくても試合はある(この辺のくだりは昨年のレポート参照)。試合開始は夕方の5時だが、朝から気分は10歳の子供である。
ベアーズの主催ゲームは1998年以来で、当時はOBベアーズと言った。OBというのは中規模財閥の斗山グループの主幹企業であるOBビールのOBで、1999年から財閥名の斗山ベアーズを名乗ることになった。したがって、新しいベアーズを見るのは(1999年の日韓スーパーシリーズを除いて)初めてである。試合開始45分前に球場に到着。チケット売場には列が出来ている。ベアーズの試合にしては観客の出足は上々である。
チケットは後回しにして、レフト側スタンド下のベアーズハウスへ行く。ベアーズハウスというのは1階がベアーズのスーベニアショップ、2階が優勝ペナント、トロフィー、写真等が飾られたギャラリーとなっており、グッズを買うついでにベアーズの歴史が一目でわかるようになっている。1997年に初めて来て以来、何回か足を運んでいるが、私以外の客と居合わせたことはほとんど記憶にない。いつも学生のアルバイトが宿題のテキストを開きながら一人で店番をしていて、少し買うだけでたくさんステッカーや応援歌CDをおまけにくれるのが習わしだった。 しかし、今年は地元ソウルっ子のお客さんも入れ替わり立ち替わり訪れ、帽子(1万ウォン)やユ ニフォーム(2万ウォン)といった高価な物も売れていた。
観客の出足やショップの売れ行きからも韓国経済の復興ぶりがわかる。私も負けずに先出の帽子、ユニフォームに加えクマのぬいぐるみ(2万ウォン)、イヤーブック(2000ウォン)、ステッカー(1000ウォン)、ポストカード(1000ウォン)と大爆発してしまった。
ベアーズハウスで爆発したあとは、隣接されているコンビニLG25とケンタッキーフライドチキンで飲み物やハンバーガーを買い、チケットブースの列に加わる。今年からプロ野球のチケットは、LGカードやサムスンカードといったクレジットカードによる購入割引サービスが始まり、割引購入も可能な窓口が新たに設置されている(割引額は座席やクレジットカードによって異なるようである)。そのためカードを手に並ぶ人も多い。私は5000ウォンの一般席を購入。1997年以来、地下鉄や市内バスは200ウォンほど値上がりしたものの、プロ野球の入場料は据え置き。有り難いことである。
いよいよ入場!と思ったが、入場ゲートに何やら看板が。良く読んでみると『ユニフォームデー』といって、ベアーズのユニフォームを着用した観客を一般席に無料招待するファンサービスを9月のベアーズ主催試合で実施するとのこと(同好会ユニフォームやTシャツは除くと明記されていた)。したがって、ベアーズハウスでユニフォームに着替えた私のような観客はチケットを買わなくても入場できたらしい。おまけにユニフォーム着用者専用ゲートから入ると応援に使用する風船(販売価格1000ウォン)も貰える。もし、このレポートを読んで、これからチャムシル球場へ行ってユニフォームを買ってしまうかもしれない野球好きはチケットを買う前にしっかりとファンサービスをチェックすることをお薦めする。(すいません、9月過ぎてしまいました−byソウルナビ)
そうこうしてスタンドに到着すると、既にベアーズの選手が守備位置に散る時のテーマ音楽『ファイナルカウントダウン』(この音楽も1997年から変わっていない)が鳴り終わり、試合開始直前の国歌斉唱の時間になっていた。スコアボードに表示される歌詞を見ながら国歌を歌い終わるとアンパイアの『プレイ』の声が響く。さぁ、試合開始。ベアーズはアメリカ人投手ビクター・コール投手が先発。初回は危なげなく立ち上がる。そして1回の裏、ベアーズはSKのエースである先発のイ・スンホ投手を攻める。先頭のチョン・スグン(昨年のシドニーオリンピックでも活躍)選手のヒットを足がかりに1アウト2塁のチャンス。そして打席には3番打者の主砲タイロン・ウッズ選手。スタンドは既に総立ちで両手に持った風船を頭の上に上げて『ウーッズ(現地の発音はウジュ)、ウーッズ』の大合唱。
レフトスタンドには『ウッズホームランゾーン』という横断幕が掲げられ、ホームランボール目当てのファンが陣取っている。その期待に応えてウッズ選手が叩いたボールは『ウッズホームランゾーン』を目がけて飛んでいき、今季30号のホームラン。ウッズ選手はこれで来韓4年連続の30ホーマー。初回からほとんどの座席が埋まった1塁側のベアーズ応援スタンドは狂喜乱舞である。ウッズコールが鳴りやむことなく続く4番のシム・ジェハク選手は討ち取られ、5番のキム・ドンジュ選手も倒れてしまったが、幸先良く先制点が入り、勢いに乗って2回にも1点を追加する。
しかし、その後試合は膠着状態がつづく。スタンドが湧くのはイニングの合間にスタンドの中ほどにある応援団ステージに出てくるチアリーダーのダンスくらいといった感じで試合は進む。試合前から飛ばし気味だったのでそれはそれで良いのだが、その代わり、この日同行したベアーズファンのチョン・ソヨンさんにイヤーブックを見ながらベアーズについて教えて貰う。ソヨンさんは3年目のキャッチャーのホン・ソンフン選手がお気に入りとのこと。お約束の表現で申し訳ないが、確かにマスクを被るのがもったいないくらいの顔をしている。プレーも顔に負けずガッツある守備を見せている。イヤーブックによると1999年に入団し、その年の新人王を獲得。やはりシドニーオリンピックのメンバーで、それまでレギュラーだったチン・ガビョン捕手をトレードでサムスンライ オンズに追いやってしまった程の実力も備えている。「日本のロッテの捕手はあまり良くないから、日本に連れて帰って良い?」と冗談で聞くと「アンデ!(ダメ)」と怒られた。ソヨンさん曰わく「彼がいないベアーズなんてベアーズじゃないわ。ベアーズファンはみんなそう思っているわよ。特に女の子はね」とのこと。
ホン・ソンフン選手の話をしていると試合は7回裏を迎える。すると、ソヨンさんが急にチケットの裏の番号とスコアボードを見るように言う。慌ててチケットの半券を探して見る。スコアボードには『ケンタッキーフライドチキン御食事券当選者300名 下1桁3,4,7,8』と出ている。私のチケットは下一桁が7番。思わずガッツポーズ。帰りに一塁側入場スロープ下の『ベアーズコーナー』で引き替える。この手のファンサービスは日本でも行われているが、チケットとは別にラッキーカードという別の用紙が配られるのが普通で、チケットの裏に書かれてある番号というのは効率的で良いアイデアである。しかも下一桁に4つも数字が出るのはかつての阪急ブレーブスなみの太っ腹である。ちなみにこの御食事券は球場内のケンタッキーフライドチキンでも使用できる優れもの。日本の千葉ロッテマリーンズのファンクラブで貰えるロッテリア御食事券が千葉マリンスタジアムで使用できないのとは大違いである。
我がベアーズは3点リードのまま終盤8回を迎える。8回に1点を失い、2点差で迎えた9回裏には押さえのエースであるチン・ピルジュンを投入する。チン・ピルジュン投手が8回にベンチ脇のブルペンでウォームアップを始めただけでソヨンさんは「彼が出れば、もう間違いなく勝つわよ」と喜んでいる。ソウルの大魔神といったところである。しかし、ソウルの大魔神の調子は今ひとつ。詰まった当たりのヒットが続き1点を失い、さらに満塁のピンチ。しかし、何とか最後の打者を三振に討ち取り3対2でベアーズが勝利。
勝利の喜びに酔いつつ、球場を出ると出口で何と振る舞い酒ならぬ『振る舞い焼酎』が行われていた。韓国では球場に限らず、ビールよりも焼酎が一般的である。その焼酎に斗山というブランドの焼酎があるのだが(もちろん斗山グループが販売している。確かかつてはグリーン焼酎と言って売られていたはず)、勝った日には振る舞い焼酎をするらしい。焼酎を一杯と焼酎の瓶を持ったベアーズのマスコットが描かれたキーホルダーをもらい祝杯。試合中もスタンドを盛り上げていた焼酎瓶の形をしたぬいぐるみと記念撮影もする。焼酎を貰うときは大人だが、ぬいぐるみと記念撮影をしているときは子供に戻ってしまった。そこが野球観戦の楽しいところでもある。

チャムシル野球場『アゴ&アシetc』メモ

まずはアシ。地下鉄2号線総合運動場駅下車。市内の中心部からは30~40分。タクシーだと時間は同じくらいで、高くとも1万ウォン程度。
アゴは充実。まず、レフトのベアーズハウスとLGツインズのショップ隣と内野席入り口及びスタンド下のスロープの至る所にコンビニLG25、ケンタッキーフライドチキン、バーガーキングがある。また、ベアーズハウスからそのまま球場の外壁沿いに歩いて行くと1塁側の韓国フードが楽しめる食事百貨店という食堂がある。メニューは冷麺、海苔巻き、ピビンパップをはじめ、トッポッキ、パジョン(ネギのチジミ)まである。テイクアウト可能なものもあるので聞いてみよう。値段は3000~5000ウォン程度。
多少は球場料金だが、日本のドーム球場程の暴利ではない。お薦めは入って一番左で売られているお辯当(3500ウォン)。ナムル、キム チ、豆腐、プルコギなどが少しづつ入っていて美味しい上にペットボトルの水に海苔も付いてくる。頼めばご飯の量も大盛りにしてくれる。場内の売り子のおばさんはアイスクリームとポテトチップス、するめイカも売っている。ビールと焼酎もLG25と売り子から買える。アメリカの球場のようにID提示は要らない。日本の球場と違って生ビールではないが、缶のまま持っていって良いのが嬉しい。
チケット購入の際は料金表を見て勝手に日本の球場のようにS席、A席、内野、外野のことかと勘違いしてはチケットは買えないので注意しよう。チケットは余程のことがない限り満員で売り切れるということはないので、当日球場に行ってソウルっ子と一緒に並んで買おう。韓国語が出来なくても5000ウォン札か1万ウォン札を出して『ハナ』と言うか『one』と言うか、人差し指を立てるかして買ってみよう。チケットを買うのに苦労するのも旅行の良い思い出となろう。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2001-10-12

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