しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第5回「2001韓国野球観戦記(3)」

9月4日(火) LGツインズ対ロッテジャイアンツ@チャムシル野球場

今日の天気は曇り。朝、テレビで見た天気予報だと降水確率は60%だったが、雨は降りそうで降らない。この日は、午後から戦争記念館を観光したので球場まではタクシーを利用した。したがって、地下鉄階段の海苔巻きの値段では確認できなかったがチケット売場は開いている。韓国のプロ野球は中止の予想が難しい。アメリカみたいに深夜まで待ってでもやるわけではないが、ソウルは天然芝球場なので、当日はきれいに晴れていても前日に降った雨の影響で中止になってしまうこともあって油断は出来ないのだが、今日の様子だと試合は大丈夫なのだろう。
まず、いつものようにレフトスタンド裏のツインズのショップを冷やかす。LGツインズの10年史の本(8000ウォン)とファンブック(2000ウォン)を買う。ジャンパー(45000ウォン)は迷ったがやめた。去年は売ってたナイキ製のものがあったら買ってたかも知れないが、既に単価は安いがかさばるものを買いすぎていると自戒した。
ツインズのショップの後は夕食の調達だ。スコアボードの裏を抜け、テレビ放送車を過ぎたところに味の百貨店という韓国フードが楽しめる食堂がある。トッポッキ、ラーメン、キムパップ(海苔巻き)、チキン、、、ラインナップは充実。スタンドに持っていけるものが良いので、一番左端の売場で辯当(3500ウォン)を買う。海 苔とミネラルウォーターが付いていて、中身はご飯、少量のプルコギ、豆腐、そして当然のようにキムチが入っている。「へぇ、日本から来たの。ご飯は大盛りにも出来るわよ。ここの辯当は本当に美味しいんだから」と店のおばさんに言われたが、頼まなくても既に大盛りに見える。おかずは少し物足りないが、球場料金というわけでも なく、なかなか良心的である。
いよいよ入場。試合開始は18時半だから開始まで1時間以上ある。スコアボードのビジョンではLGツインズの前のゲームがダイジェストで流されている。今日はロッテ側のスタンドで観戦することにした。時間があるので辯当を食べてから3塁側スタンド下、ロッテのグッズ売場へ行く。すると本拠地の釜山の球場よりも品揃が良いではないか。かさばるくせにユニフォーム(35000ウォン)、ロゴ入りボール(2000ウォン)、Tシャツ(9000ウォン)を買い込んでしまう。グッズを買ったついでにグッズ売場の裏手にあるバーガーキングでダイエットコークを買ってスタンドに戻ろうとしたら、通路にグッズ売場の店員のお姉さんが待っていた。「ごめんなさい。さっきのお釣りを少なく渡してしまったみたいです。」私は確かに少ない気はしたが、てっきり大きいサイズを買ったから少し高くなったのかと思っていた。丁寧にもスタンドまで返しに来てくれるとは、何とも誠実なことである。
その後、友達もロッテグッズを買うというのでついていくと、日本から来たロッテファンと思われる人が数人、売店にいた。私たちの他に日本から来たロッテファンがいたことは少し驚いたが嬉しかった。英語でやりとりしようとしているようだが、上手くいっていない。サイズの表示がMやLではなく105とか110と書いてあるので分からないのと金額が聞き取れない様子なので間に入ってあげる。

日本ロッテファン「ユニフォームのLLサイズはないの?」
店員「ここにはないけど、倉庫に電話して聞いてみます」
私「あれば明日持って来れますか?」
店員「聞いてみます」
日本ロッテファン「明日は来ないから明日じゃ遅いんだよ」
私「この人は明日は来れないんですが」
店員「今、倉庫から持ってくるので少し待って下さい」
私「ありがとう」
日本ロッテファン「英語が通じねぇんだよな。」
間に入って無事に解決したが、そもそも、英語が通じる通じないではない。「ベリーラージサイズ。ラージサイズ、ノーノー、ベリーベリーラージユニフォーム・・・」こんなもの英語ではない。しかし、チャムシル球場の売店は親切にもすぐにLLサイズのユニフォームを持ってきてくれた。韓国語がわからないから英語でというのはわかるが、ある程度は正しい英語(文法が完全でなくとも)を使わなければ何の意味もない。僕は英語がそんなに話せるわけでないが、少しくらいはちゃんとした英語かどうかくらいはわかる。韓国で買い物をするとき、若い店員なら英語でやりとりするのは大丈夫だが、英語でなければ・・・。
売店から戻り、いよいよ試合開始。釜山から応援団長とチアリーダーも来ている。ファンも多数、釜山から駆けつけた様子で、釜山で会った数人と挨拶を交わす。ロッテはレイ投手、LGはヘリガー投手という外国人投手同士の先発。ロッテはLGのヘリガー投手が乱調(3回までに72球を投げ5四球、1安打)なのに、あと一本が出ず得点が入らない。今日の天気(日本のロッテ)と同じような展開である。対するLGも3回にヒット3本で1点を先制する(そして、なんとこの1点が決勝点になってしまう)ものの、同じくあと一本が出ない。フェンスのLGの広告に『デジタルLG』と出ているが、まさにその通りでスコアボードには0と1しか入らない。その後もロッテは7回、8回、9回とチャンスを迎え、そのたびにスタンドは総立ちで新聞を振り回して釜山カルメギや釜山港へ帰れを歌うが、ランナーは帰ってこない。三振やダブルプレーの度に流されるLGツインズ自慢の楽しいアニメーションが何とも恨めしい。結局、そのままゲームオーバー。
試合は終わったが、試合中に釜山で会ったロッテファンの人が「試合が終わったら球場の前で飲まないか?」と誘ってくれていたので、もちろん快諾し、球場前の屋台へ移動した。すると球場前の屋台へ総勢30人程が集まっていた。彼らは『巨人塊(コンムンチ)』というインターネットで募った応援グループで、メンバーは釜山の人だけではなく、ソウル在住の釜山出身ロッテファンも多く、試合が終わると集まって飲むのが習わしなんだそう。声をかけてくれたムン・サンヨンさんも当然、メンバーの一人である。「年齢は?25歳?韓国の年齢だと27歳だから、僕より2歳上の兄貴だね。韓国では年長者を敬うのがルールだから」といって仰々しく焼酎をついでくれた。全員に焼酎が行き渡るとリーダーの音頭で乾杯をし、日本から来たロッテファンだと紹介された。私たちの簡単な自己紹介のあと、友情の証として一緒に釜山カルメギを歌う。私たちも日本ロッテの選手や応援を紹介し、日韓ロッテファンの美しい国際交流宴会となった。「皆さんも日本にいらっしゃったときは、千葉マリンスタジアムで歓迎します」と言ったら「釜山から高速船に乗って福岡に行くのは大丈夫だけ ど、日本のロッテはホームが千葉にあるから遠いよ。新幹線も高いし。でも、いつか必ず行くよ」とのこと。物価や為替のことはあるけれど、日本でも日韓ロッテファンの交流が実現することを願って止まない。
そうこうして、歌って喋って、今日の試合に負けたことなんかすっかり忘れて大盛り上がりだったが、翌日も試合があるので1時間ほどでお開きに。するとムンさんが「これは今、ロッテにいるけど故障で来年はクビになりそうな投手が実際に着ていたユニフォーム。球団から貰った貴重なものだけど、友情の印に兄貴にあげるよ」と 言って、背中に21番の背番号とキム・チョニョルと名前が入ったユニフォームをプレゼントしてくれた。私はユニフォームをアメリカや日本のチームのものを数種類持っているが、どれもレプリカばかりで、選手が実際に使ったものは初めてである。ムンさんに「本当にありがとう。日本に帰ったら日本のロッテグッズを送るよ」と約 束し、球場をあとにした。タクシーでホテルに帰るまで、私の手にはユニフォームが握られていた。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2001-10-26

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