しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第12回「がんばれベアーズ2004『熊か双子か。それが問題だ』~7/24斗山ベアーズ対LGツインズ@チャムシル野球場」

今回はいきなりクイズから入ろう。さて、ニューヨーク、シカゴ、東京、ソウルの共通点は?答えは野球チームが2つあること。ちょっと野球に詳しい人はロスアンゼルスとアナハイム、サンフランシスコとオークランド、大阪と神戸も含めなければおかしいと言うかも知れないが、ともかく、人口が多い大きな都市には二つの野球チームがしのぎを削っているものなのだ。
ここソウルでも斗山ベアーズとLGツインズがしのぎを削っている。先に挙げた他の都市とは違い、同じ球場を使い同じリーグに属しているものの、それぞれのチームカラーは、はっきりとした色の違いがあり、球団もファンも互いに『ソウルのライバル』と認識している。まわりの韓国人に色々と聞いた範囲でそれぞれのカラーを簡単に説明すると、ベアーズは『古くから野球を見ているファンが多く、どちらかというと渋い野球をするチームに渋い好みのファンが付いていて、成績も堅実なチーム』、ツインズは『若くて格好も良いスター選手が多く、若い世代から支持を受けているが、人気の割りに強くはないチーム』ということになる。関西に置き換えると、ベアーズ=ブルーウェーブ、ツインズ=阪神タイガースに近い感じである。実際のユニフォームに使われているチームカラーも、ベアーズがダークブルーにゴールデンイエロー、ツインズが黒と白のストライプである。ニックネームの頭文字も、『B』と『T』。阪急ブレーブスファンだった私がソウルでどちらを贔屓にしているかは書かなくてもわかるであろう(もっとも、私は阪神タイガースは好きではないが、ツインズは嫌いなチームではない)。今回のレポートはそんなソウルのライバル対決『斗山ベアーズ対LGツインズ12回戦』からお伝えしよう。

この夏、私は会社の韓国語教育を受けるため、ソウル郊外(といっても東京と所沢よりも郊外である)の龍仁市で過ごしていた。7/12から9/17までの10週間、平日は龍仁市の教育施設、週末はソウルで過ごすという生活。週末はソウルで過ごすということは、週末はチャムシル野球場で過ごしてきたということである。特別な用事や物理的に不可能なこと(試合が予定されていなかったり雨天による中止)でもない限り、野球場で過ごしてきたというわけである。

前の週末はプサンでオールスターゲームが開催されていたために、ソウルで試合がなかったが、この週はプロ野球がソウルに帰ってきた。火曜日くらいから土曜日の晩が待ち遠しい。週末に野球があると思えば、朝から晩まで韓国語のトレーニングを受けていても楽しい気分である。そんな調子なので総合運動場駅(地下鉄2号線)へ向かう地下鉄に乗る頃には、足の踵にはばねが付いているような気分である。この日の天気は蒸し暑く、深夜から雨になるというが、試合には問題ない。『さぁ野球だ野球だ!』
17時過ぎに球場に到着。今日の仲間はこのレポートでベアーズ戦を書くときによく登場するS女史(実名は恥ずかしいから出さないようにと依頼があったので今回はS女史と記載しておく)と会社の同僚であるTさん。17時半にレフト側外野席裏のベアーズハウス横のバーガーキング前で待ち合わせである。早速、ベアーズのオフィシャルショップ『ベアーズハウス』と隣のツインズのショップといういつものコースを『巡礼』する。ベアーズハウスではユニフォームを購入。昨年から入会したベアーズファンクラブ会員証を提示すると20%オフである。ベアーズハウスの店員に「このカードは去年のものですね。今はとりあえず割引をしますが、新しいカードに替えてください。一塁側スタンド入り口を入るとファンクラブ入会受付があるのでそこで継続手続きが出来ますよ」と言われる。『外国人だから大目に見てくれてありがとう』といったところである。一方、隣のツインズのショップでは、ファンブックや選手名鑑をクレジットカードで購入しようとしたら、「LGカード以外のクレジットカードは使えません」と冷たく言われてしまい、さらに店員の態度も本当にそっけない。『ベアーズハウスの優しさとはえらい違いやな』と思ったが、よくよく考えたらベアーズのユニフォームを着てツインズのショップに入ったんだから仕方がない。そんな低いレベルでもライバル心がめらめらである。
S女史とTさんも合流して、いよいよ入場である。チケット売り場にはこんな張り紙がしてあった。『今日はベアーズデーです。皆さんの声援に感謝して全席半額サービス』とのこと。普段は7,000ウォンの一般席も3,500ウォンである。勿論、全席ということは指定席も半額。太っ腹である。このベアーズデーというのは、毎月最終土曜日のホームゲームで開催されるイベントで、入場券半額(子供は無料)の他、その日のゲームに勝つと残りのホームゲーム一試合を無料入場できたり、ベアーズのユニフォームやTシャツを着ていくと記念品がもらえたり(この日はジレットの4枚刃剃刀か映画『ブラザーベア』のビデオのいずれかが貰えた)、キャラクターグッズの割引があったりするという『行けば得する日』なのである。さらに、この日のベアーズデーは夏休み特別企画として選手のサイン会やチアリーダーとの写真撮影会、選手によるサインボール投げ入れなどのサービスも実施され、いつもより多くのファンが詰め掛けていた。普段はツインズファンの方が多いスタンドの風景も、この日ばかりはベアーズファンの方が多く見える。「変だな。LG側より斗山側の方がファンも多くて盛り上がってるぞ。チャムシルに何度も来てるけど、こんなのあまり見たことない」とS女史に言うと「今年はツインズより強いんだから当たり前でしょ!」と怒られた。

事実、この日の12回戦を迎えるまでの対戦成績は9勝2敗。順位もベアーズ2位、ツインズ6位である。今年のシーズン前の評判は逆であった。開幕日にS女史から来たメールには『評論家の予想はベアーズはロッテと最下位争いだけど・・・』と書いてあったし、実際にオフにはベアーズは主力選手が何人か移籍し、逆にツインズは現役メジャーリーガーが加入という、ベアーズにとって明るくないニュースしか聞こえてこなかった。しかし、ペナントレースはやってみなければわからないのである。

外国人なので住民登録番号がないため時間がかかったものの、ベアーズファンクラブの継続手続きも無事に終え、ベアーズ応援席に陣取り、OBの生ビールを飲んで、応援に使う風船を膨らまし、スコアブックに選手名を記入しながらそんな話をしつつ、プレイボールを待った。

試合前恒例の愛国歌が流れ、いよいよプレイボールである。我がベアーズの先発はチョン・ビョンドゥ投手。ここまで2勝6敗、防御率は6点台。相手のツインズはエースのイ・スンホ。7勝7敗ながら防御率は2点台前半である。しかし、野球はやってみないとわからないのである。

チョン・ビョンドゥ投手もイ・スンホ投手も序盤からピリッとしない。ところが打線もつながらない。ヒットもフォアボールも出るものの3回まで無失点で試合は進む。ファンとしてはイライラする展開である。そして4回表、今季、故障から復帰したLGのスター選手キム・ジェヒョン選手がライトスタンドにライナーで突き刺さるホームランを放つ。ツインズが先制である。白一色のベアーズファンからため息が漏れたが、この日のベアーズはここから本気を出してきた。5回裏二死走者なしから2番のベテランスイッチヒッター、チャン・ウォンジン選手のヒット、3番の二塁手、アン・ギョンヒョン選手の二塁打であっさりと同点にすると、6回も6番のチェ・ギョンファン選手から3連打で逆転。7回表にフォアボールとワイルドピッチで再びツインズに同点にされるも、7回裏またまたアン・ギョンヒョン選手のタイムリーヒットで再び逆転。この日のアン・ギョンヒョン選手は守ってもファインプレーを連発。打っては3安打の大活躍である。
スタンドも火がついたように盛り上がった・・・というか実際に『火』が点いていたのだ。7回裏の攻撃前にチアリーダーが何やら細長いものを配り始めた。よく見たら線香花火である。『まさかスタンドで花火?安全面に問題がないのか』と心配になる。実際のところチアリーダーも『子供はダメよ』と言いながら配っているが、子供も大人も花火を握り締めているではないか。応援団長がマイクで『さぁ火を点けて』と言うと、スタンドは一斉に花火が煌いた。見た目は美しいがやっぱり火の粉が降りかかるとちょっと熱い。韓国の消防法では、このファンサービスはセーフであるらしいが、日本ではちょっと考えられないファンサービスである。1997年から毎年のようにチャムシル野球場に来ているが、『線香花火』は初めて見る光景で本当に驚いた。

そんなこんなで結局、試合はそんなスタンドの熱気と火気に応えて4対2でベアーズが勝利。二度の逆転に花火。この日、ソウルの夜は熱かった。


上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2004-10-20

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