谷みつのソウル特派員レポート・第1回「韓国の春といえば」

待ちに待った春がやってきた。
昨日までは、長いコートをきていたのに3月下旬からは薄手のジャケットに、そして4月に入ってからは、街のあちこちで半袖姿の人々を見かけるようになった。
それと同時に韓国の春の花々も満開だ。黄色いケナリ(レンギョウ)、紫色のチンダルレ(山ツツジ)、白い木蓮。「ある朝、起きたら突然に……」と言う表現がぴったりなほどいっせいに春が来たという感じである。
そして忘れてはいけないのが「桜」。日本人によく「韓国にも桜があるの?」と聞かれるが、もちろん韓国にも桜はあり、汝矣島《ヨイド》の公園では「桜祭り」が開かれているほどである。という私も、実際に韓国で桜を見るまでは、韓国に桜があるとは思っていなかったけれど。
そう、私が見て驚いたのは、桜だけでは無かった。
去年、私が韓国に来て初めて韓国人のオンニ(お姉さん)に連れられて、オンニの友達や留学生たちとソウルの東側にある「子供大公園」にポッコノリ(花見)行ったときのことである。「金剛山も食後の見物(花より団子)」と言うことわざがあるように、ポッコノリに欠かせないものは、キンパップ(韓国ののり巻き)、ティキム(天ぷら)、トック(餅)などの食べ物。そして酒のつまみには、コチュジャン(唐辛子味噌)をつけながらいただく丸ごとのきゅうりに、丸ごとの青唐辛子。
韓国に来て間も無かった私には、この「野菜丸ごと(+皮付き)」には驚かされた。「こんなに大きいきゅうり1本、どうやって食べるの?」と心配している間に、オンニが手できゅうりをバキバキと割り出した。そして3分の1づづに割られたきゅうりはそれぞれの手に。私も怖々、丸ごときゅうりにコチュジャンをつけて食べてみた。これがいけるのである。丸ごとの歯ごたえに、ピリッとくるコチュジャン。きゅうりに味を占め、今度は韓国に来るまでは食べたことも無かった青唐辛子を丸ごと、それもコチュジャンをつけて挑戦。韓国の空の下、桜を見ながら食べる青唐辛子は、最高だった。
ポッコノリに行ったのに、お辯当を忘れたからと言って心配無用なのが、また韓国の良い所である。桜のある所にキンパップ・アジュンマ(おばさん)あり。
先日、ポッコノリに出かけた「ソウル大公園」では地下鉄の出口から、公園に向かう200mほどのエントランスの両脇に、2mおきにキンパップやトックを売るアジュンマを見ることが出来た。一様に地面に座り、帽子を被り「キンパップ、トック、チョンウォーン(1000ウォン=100円)、チョンウォーン」と言いながら売っている姿は壮観であった。
このアジュンマたちの顔を見てみると、町で出会う普通のアジュンマである。きっと、この桜の季節だけ、家庭で鍛えた腕を振るいキンパップやトックを作って、こうやって売っているのだろう。いつもは家族のためだけに作る料理を、他の人たちのために作り、そしてそれを自らの手で売る。何と手応えのある仕事ではないか。そう思ったからかもしれないが、アジュンマたちの顔は、街で見掛けるときよりもいっそう生き生きとして見えた。
私たちも、アジュンマの一人からキンパップとトックを買って食べたが、本当においしかった。
4月も半ばを過ぎると、ケナリやチンダッレの花々は色を落とし、今度は青々とした若葉が芽を出す。桜も散り際、キンパップ・アジュンマも姿を消しだし、韓国の短い春が終を迎えようとしている。
そう、韓国の暑い夏はもうそこまで。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2000-04-20

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