谷みつのソウル特派員レポート・第11回「これが登山だ!(登り編)」

ソウルは秋も深まり、というかもう冬の装い。 寒い時では朝の気温がマイナス1度の時もあるくらいだ。 といっても、まだ気分はもう少し秋。 韓国でも秋と言えば、食欲の秋・芸術の秋、そして「登山の秋」。
韓国人は登山好きである。 特に中年層から上の方々が。 韓国に来たばかりの頃、市内バスや地下鉄の中で、厚底の登山靴を履き、登山用の靴下、おっきなリュック、登山用の杖、そしてなぜか一様に赤の登山用ベストを着た「プロの登山家か?!」と思わせるほどのいでたちのアッジョッシ(おじさん)やアジュンマ(おばさん)がよく隣に座っていて、「ギョッ」としたものである。
ソウルには市内からバスや地下鉄で1時間ほどの場所に『北漢山』と『道峰山』の2つの日帰りで登れる山があるので、簡単に山登りが出来る、という理由もあるのだろうけれど。
以前、私も昨年春、高麗大学の語学堂のみんなと『北漢山』に登ったのだが、筆舌し難い大変さで、それ以来、登山をキライになってしまった。
そんな私に、この秋登山のお誘いがやってきた。 友人(日本人女性)が教える日本語の生徒さん(アジョッシ)達が、彼女に「『北漢山』に登ろう」と誘ったそうで、そのついでに私も登山に誘ってくれたのである。 気乗りしないながらも友人の「登山なんて半日で終わるから。ちょっと行って登ってくるだけ。」という(強引な)誘いに負け、11月のとある土曜日『北漢山』へ登る事になってしまった。
a.m.8:30 迎えに来てくれたアジョッシの車に乗って、一路『北漢山』へ。 まずは『北漢山』の中腹の駐車場間まで行き、そこから登るそうである。 駐車場で誘導してくれるアジョッシも、「登山ばっちり服」でさすが「『北漢山』の駐車場、誘導員も登山のカッコウをしてるんだ」と思っていたら、そのアジョッシが私たちの方に近づいて来て
「おはようございます」
と、日本語で挨拶をしてきた。 (ゲッ!もしかして、一緒に登山するアジョッシ?!でも、ここまで連れて来てくれたアジョッシは普通の服装だったのに) と思い、振り返ると、運転してきたアジョッシが本格的登山帽を着てニコニコしていた。
一緒に登るメンバーは、登山服完全装備のアジョッシ4人に、友人、友人の友人、そして私の計7名。 登山道の入り口で入場料の1500ウォンを払い、いざ出発。
と軽快に行きたいところだったのだけど、日ごろ運動不足の友人と私は5分も経たないうちに、ゼーゼーゼーと息を切らしていた。 なのに、その横をアジョッシ4人は涼やかな顔をして登っているのだ。
「登るの大変じゃありませんか?」
と聞くと
「私たちは、毎週、山に登っています。登山が趣味です。これくらいは大変ではありません。」
という完璧な日本語で返事が返ってきた……。
ヘトヘトになっている私たち2人のため、アジョッシ達は何度か休憩を取ってくれた。 休憩をしていると1人のアジョッシ(仮にPアジョッシとしよう)が
「妻が準備してくれました」
と言いながら、紙コップを配り水筒に入れた果物の紅茶を注いでまわってくれた。 本当に準備の良い韓国人である。
一息ついてさあ出発。 道はだんだんと急になり、足だけでは足らず、手までも動員して登らなくては行けなくなってしまった。それに、山に登ると言うよりも「岩に登る」と言ったほうがいいほどの山ぐわい。 それでも、友人はほとんど引っ張られながら、私は髪を振り乱しながら、何とか『雲遊荘』という中腹の山荘にたどり着いた。
フラフラになりながらベンチに腰掛けていると、どこからともなくアノ匂いが……。振り向くとアジョッシがドンブリに入ったマッコリ(韓国のにごり酒)を人数分持ってやって来た。
それぞれの胃に、ドンブリ1杯のマッコリを収めて再び出発。 マッコリのせいでフラフラな私を尻目にアッジョッシ達は元気溌剌。 (とにかく気合で登ろう)と口もきかずせっせと登っていると、私が登山に真剣になっていると勘違いしたアジョッシが
「谷みつさん。みつさんくらい頑張れば、少し練習するとプロの登山家になれます。」
とニコニコしながら誉めてくれた。(だれがプロの登山家になるかい……。)
ひたすら登っているうちに、やっと『北漢山』の頂上が見えてきた。 頂上を見てびっくり。『北漢山』の頂上までの20メートルほどは岩・岩・岩。それもツルーンとした岩。どこに足をかけて登るのかと思うと、岩の所々にロープが渡してあり、それにつかまって登るようだ。 アジュンマ達も、お互いのお尻を押しながら登っている。 私も登り出したのはいいのだけど、足が滑る滑る。まるで公園にあるアリ地獄を登ってるみたい。
途中の岩の上で休んでいると、アジョッシが突然
「写真を撮りましょう」
……えっ、ここで?! 谷底から吹き上げられる強風に足を取られながらの、写真撮影が始まった。
「もっと、左に寄って。足をもっと引いて。それじゃあ後ろの山が写らない。」
えーいい、どうでもいいから早く写真を撮ってくれ!! という私の気持ちと裏腹に、アジョッシ達は何枚も何枚もポーズを変えて写真を撮っている。
「みつさん、笑って下さい。」
やーっと写真撮影が終わって、また、逆型アリ地獄へ。 あともう少しで『北漢山』の頂上が……。
(以下、頂上編につづく)

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記事登録日:2000-11-16

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