谷みつのソウル特派員レポート・第13回「これが登山だ!(下り編)」

1:00PM ようやく下山。
下山するうれしさと同時に、あんなに険しいかった道を下りるんかい……、と絶望的にもなってしまった。
みんな、ソジュ(焼酎)で少しフラフラとなりながら下山を始めた、がっ、歩いて下りるというよりは、『滑って下りる』という言葉がぴったり。
頂上のあたりはつるつるの岩なので、ロープをぎゅっと捕まり足を滑らしながら下りて行く。
足だけでなく手にも力が入り、手袋をしていない手がジンジン、ヒリヒリ。
痛い手をこらえて下りていると、1番年輩のアジョッシ(おじさん)が振り返り、アジョッシが履いていた手袋を片方脱いで貸してくれた。ありがとう。
急な岩山を下りると次には、本格的な山道が待っていた。
来た道を下りようという意見もあったのだが、せっかくだから違う道を下りてみよう、と言うことであったのだが、また、またこの道がくせ者。 くせ者にしたのは、あるアジョッシなのだけど。
『北漢山』は以前にも書いたとおり、市民の身近な観光登山スポットとなっており、老若男女問わず様々な人が登山している山である。 なので、近年ある程度、山道を登りやすく整備している。 我々が下山しよとするであろう道も、少々道を均し、谷に面した側にはロープが張られていた。 当然、その道を下りるのだと思った私は、甘かったね……。
アジョッシが選んだ道は、彼が学生の頃通ったという、整備された道の約1メートル上を通る『獣道』のような道だった。 この『獣道』が『北漢山』の本来の道だと言うけれど、1メートル下には歩きやすそうな道あるのに。 1メートル下を通って行く人たちは、あえて苦難の道を行く我々を見て
「大変そうね、アハハハー」
って感じで我々を追い抜いて行くのである。
滑らないように枝を掴みながら、蔓を掴みながら、私はきっと必死の形相をしていたと思う。 あの顔を見られたら100年の恋も冷めるだろうな。
命がけの下山の途中でも、眺めの良い場所に行き当たると
「写真を撮りましょう」
髪はぼさぼさで化粧はすっかり落ち、顔は汗と油とでテカテカ、その上疲れ切って微笑みさえも浮かばない……。
それなのにアッジョッシたちは元気いっぱいで、写真を撮るのをガンガン仕切っている。一体この元気どこから出てくるの???
山の麓に近づくにつれ道はずいぶん楽になり、何かを捕まって下りなくても良くはなった。
けれど足下は落ち葉で滑りやすく、いや何度滑ったことだろう。
あまりに何度も滑るので、初めは心配してくれていたアジョッシたちも最後には誰も振り向いてくれず、私の10メートルほど前を歩いている。 スルプン・谷みつ(かわいそうな・谷みつ)。
下山開始から約1時間半、やっと下界が見えだした。
ホッとしているところに、あの気が利くPアジョッシがあたふたし始めた。
なんと、あんなに苦労して撮っていたカメラをどこかに置き忘れてきたらしい。
大変!! 一人でもう一度カメラを探しに登るのは寂しいと、友達や私を一緒に登ろうと誘うPアジョッシに、他のアジョッシたちは冷たく一人で探してこいと言う。(おかげで私たちも助かったけれど。)
山道を再びかけ登るPアジョッシの背中は忘れようにも忘れられない(涙)
なんとかかんとか完全下山。 時計の針はもう2時半。
一人のアジョッシは用事のため先に帰り、残りはPアジョッシを待つため、ある食堂の前のいすに腰掛けた。
そこで注文したのが、さすが韓国。パ・ジョン(韓国風お好み焼き)にマッコリ(濁り酒)である。
空きっ腹にマッコリはよくキクね。 アジョッシたちのピッチも早い早い。 30分も経たない内に、一人のアジョッシは完全ノックアウト。 残りの我々も、クラクラ。
Pアジョッシが、結局カメラを見つけられないまま戻ってきた1時間後には、酔いと疲れとで無口になっていた我々とマッコリの瓶5・6本が転がってだった。
「また一緒に登山しましょう」
というアッジョッシたちと別れてやっと家路につく頃には、お日様はだいぶ西に傾いていた。
そのバスの中で『とっても疲れるしお酒はめちゃめちゃ飲まされるし、もう二度と登山なんかしないぞ』と思いながらも、すごく韓国チックで未知の体験だらけの今日1日が終わってみると楽しく・おかしく、思い出すと知らず知らずの内に笑いがこみ上げてきた。
苦労の記念写真たちは『北漢山』のどこかにいってしまったけれど、私の中では色あせることない『北漢山』の思い出たち。
もう登ることは無いかもしれないけれど、『北漢山』よ チェミ イッソッソヨ(おもしろかったよ)!!

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2000-12-26

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