コリアン・フード・コラムニストの旨旅レポ(2)~忠清北道報恩編

新登録の世界遺産と香り抜群のナツメ釜飯

法住寺。天竺より経典を持ち帰った義信祖師が創建した

法住寺。天竺より経典を持ち帰った義信祖師が創建した

アンニョンハセヨ、K・F・Cこと、コリアン・フード・コラムニストの八田靖史です。忠清北道の旨旅レポ、第2回は報恩(ポウン)という地域を紹介したいと思います。いま忠清北道でもっともホットな場所こそが報恩。忠清北道でおすすめの地域をどこかひとつと問われたら、間髪入れずに「報恩!」と答えますね。報恩には法住寺(ポプチュサ)というお寺があり、今年6月になんとユネスコの世界文化遺産として登録されたのです(登録名は「山寺、韓国の山地僧院」で法住寺を含む7ヶ所の寺院が対象)。パチパチパチ。

■いま忠清北道は報恩がアツイ

17世紀に建てられた大雄宝殿。宝物第915号に指定

17世紀に建てられた大雄宝殿。宝物第915号に指定

法住寺の創建は新羅時代の553年。報恩の一帯は三国時代に新羅が百済と勢力を争った最前線であり、新羅の国力を誇示するかのように立派なお寺が作られました。地図を見ていただくとよくわかるのですが、報恩という地域は半島の南東部を拠点とした新羅が、険しい小白山脈を越えて百済の目前にまで迫った場所です。報恩の中心部には470年に築かれた三年山城(サムニョンサンソン)跡も残っており、新羅が668年に半島を統一する前の時期、息詰まる戦いを繰り広げた痕跡がいまなお感じられます。
捌相殿。塔内に仏の生涯を描いた仏画8枚を祀っている

捌相殿。塔内に仏の生涯を描いた仏画8枚を祀っている

法住寺の敷地に入り、金剛門、四天王門と抜けて、眼前に立ちはだかるのがこの捌相殿(パルサンジョン)。高さ22.7mという木製の五重塔で、韓国に残る近代以前の木塔としては、これが唯一というたいへん貴重なものです(文禄慶長の役で焼失したものを1626年に再建しました)。均衡のとれた形状がなんとも美しく、見上げるだけでも圧倒される迫力があります。法住寺が有する国宝3つのうちのひとつで、国宝第55号に指定されています。
捌相殿と大雄宝殿を結ぶ位置に置かれている双獅子石燈

捌相殿と大雄宝殿を結ぶ位置に置かれている双獅子石燈


木塔の裏手には、統一新羅時代の720年頃に作られたとされる石燈籠があります。正式名を「報恩法住寺双獅子石燈」と言いまして、こちらは国宝第5号に指定。ポイントは双獅子という部分ですね。ぐぐっと近づいてみると……。
獅子のうち1体は口を開き、もう1体は口を閉じている

獅子のうち1体は口を開き、もう1体は口を閉じている

ご覧の通り、2頭の獅子が燈籠を支える形になっています。しかもこの獅子が見事なまでに写実的で、それはそれは惚れ惚れとする姿なのですねぇ。ぜひ近くまで寄ってしげしげと眺めてください。肩のあたりの立派な肉付き、腰の反り具合、盛り上がったふとももの筋肉。2頭で胸を突き合わせながら、阿吽の呼吸で支える微動だにしないバランス感。それはもう石でできているとは思えないほどにエネルギッシュであり、見れば見るほど生気に満ちあふれています。
法住寺の全景。左が金銅弥勒大仏。右手前に石蓮池

法住寺の全景。左が金銅弥勒大仏。右手前に石蓮池

石燈籠の後ろが大雄宝殿(本堂)。本尊仏である毘盧遮那仏を中央に、阿弥陀仏、釈迦牟尼仏の3体が鎮座しています。入口からここまでまっすぐ歩いてくるだけでも感動の連続ですが、ほかにも境内には蓮の池を石で模して作った「報恩法住寺石蓮池」(国宝第64号)や、統一新羅時代に作られた大仏を複数回にわたって復元した高さ33mの金銅弥勒大仏など、至るところが見どころだらけです。ぜひともじっくり観覧する時間を取って、足を運んでみてください。
ナツメ料理を自慢とする「ペヨンスク山野草パプサン」

ナツメ料理を自慢とする「ペヨンスク山野草パプサン」

さて、ひと通り法住寺を見学したら、参道に並ぶ飲食店にて報恩ならではの郷土料理を味わいましょう。参道沿いにある「ペヨンスク山野草パプサン」は、報恩の特産品であるナツメ料理が自慢です。報恩はナツメの生産量が全国4位と、必ずしも飛び抜けている訳ではないのですが、生産高にするとこれが全国2位。報恩のナツメが市場で高く評価されているかがよくわかるかと思います。実際に報恩のナツメを見るとたいへん大粒であり、甘味も豊かで驚かされます。毎年秋にはナツメ祭りも開催。2018年は10月12~21日という日程です。
ナツメだけでなく黒豆、黒米なども混ぜて炊いている

ナツメだけでなく黒豆、黒米なども混ぜて炊いている

お店の看板料理がナツメ釜飯のビビンバ。ナツメを加えた釜炊きのごはんを、山菜のナムルと混ぜ合わせ、ナツメ入りのコチュジャンで味をつけるという、ナツメにこだわったビビンバです。フタを開けた瞬間からナツメの甘い香りに陶然。
山菜の盛られた器に釜のごはんをよそって混ぜて味わう

山菜の盛られた器に釜のごはんをよそって混ぜて味わう

国立公園に指定される俗離山のふもとでもあるだけに、ひとつひとつの山菜も深みある味です。このビビンバにトトリムクムチム(ドングリ寒天の和え物)がついて価格はW1万2000。肉料理、山菜料理を加えた、ひとりW1万5000、W2万、W3万のコースも用意されています。
釜が熱いうちにナツメ水を注ぎ、しばしフタをして待つ

釜が熱いうちにナツメ水を注ぎ、しばしフタをして待つ

それでもいちばん感動的だったのは、ごはんをよそった後の釜に、ナツメを煎じた水を注いで作るヌルンジ(おこげ湯)でした。これがまた今までに飲んだ、どんなナツメ茶よりも香り華やかで、甘さ上品で、オコゲの香ばしさがアクセントとなって。ビビンバの美味しさはもちろんのこと、このヌルンジを食べずに報恩は語れないと確信しました。

ぜひみなさん報恩へ。法住寺へのアクセスは俗離山(ソンニサン)バスターミナルの利用が便利ですが、ソウルの東ソウル総合バスターミナルから約3時間30分(1日12便)。清州市外バスターミナルから約1時間50分(1日26便)。俗離山バスターミナルから法住寺のチケット売場までが徒歩で20分ほどです。ソウルから日帰りでも行けますが、清州と組み合わせての1泊2日もおすすめです。


■□■お店データ■□■
ペヨンスク山野草パプサン(배영숙산야초밥상)
忠清北道報恩郡俗離山面法住寺路251
충청북도 보은군 속리산면 법주사로 251
043-543-1136

八田靖史氏のプロフィール

八田靖史(はったやすし)
コリアン・フード・コラムニスト。慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。最近はトークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。著書に『目からウロコのハングル練習帳』(学研)、『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品! ぶっちぎり108料理』(三五館)、『食の日韓論 ボクらは同じものを食べている』(三五館)ほか多数。最新刊は2017年8月刊行の『イラストでわかる はじめてのハングル』(高橋書店)ウェブサイト「韓食生活」を運営。
関連タグ:法住寺世界遺産ナツメ釜飯

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2018-08-20

ページTOPへ▲

関連記事

コリアン・フード・コラムニストの旨旅レポ(1)~忠清北道清州編

コリアン・フード・コラムニストの旨旅レポ(1)~忠清北道清州編

清州式の醤油サムギョプサルを食べに

その他の記事を見る