しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第25回「韓国プロ野球ファン必見!開幕戦までにチェックしておきたい本&映画」

シーズンを楽しむには、シーズンオフが大事!選手はキャンプ、ファンは読書と映画だ!

 韓国プロ野球の2009年は、プレーオフも韓国シリーズも、最後の最後まで手に汗握る展開で非常に面白かったが、簡単に振り返っておこう。

韓国シリーズ3連覇を目指したSKワイバーンズだったが、ペナントレースは2位に終わり、韓国シリーズも第7戦で敗れ、3連覇とはならなかった。しかしながら、故障者も続出した中で、公式戦終盤は最終戦まで19連勝し、首位起亜タイガースを最後まで追いかけた。その勢いで挑んだプレーオフでは、斗山ベアーズに2連敗から逆転勝ちするなど、2009年M-1グランプリのNON STYLEのように追い込んできた。その戦いぶりは美しい敗者として語り継がれても良いだろう。

2009年はシーズン途中から、何となく起亜タイガースの年になるのではないかという予感があったが、久しぶりにタイガース王国復活となった。韓国シリーズ最終戦をナ・ヂワン選手の劇的なサヨナラホームランで決めるなど、やはり金大中元大統領が天国から全羅道へプレゼントを贈ってきたのかと思えるようなシーズンとなった。

全体としては、斗山ベアーズが史上初の観客動員100万人を達成するなど、観客動員も新記録を更新。球界全体で大きな飛躍の一年となった。

劇的な結末のあとのオフシーズンは、ゆっくり余韻を楽しみたいという声にお応えし(?)、今回はオフ企画として、韓国野球関連の本と映画を推薦させて頂こうかと思う。選手はキャンプ地で体を鍛えている間、われわれファンも新たなシーズンに備え『野球脳』をトレーニングするのも悪くはない。4月の開幕戦まで、自分の語学レベルと興味に合わせて楽しんでもらえるとありがたい。

*書籍*

基本の『き』

韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑
室井昌也著 小学館スクウェア 1,238円+税(2009年版)
ISBN978-4-7979-8083-7

韓国では、日本のように、春になれば選手名鑑が複数の出版社から出ることがない。また、一般の韓国観光案内書にはプロ野球に関する情報は皆無と言っても良い。韓国に野球を観に行きたいけど、球場への行き方も、選手の名前も何も分からない・・・という方もいらっしゃるかと思う。そんな悩みを一気に解決するのが本書である。以前より、米国メジャーリーグの観戦ガイドもあるが、球団ホームページにもあるような情報以上の情報はなく、(日本人選手が所属しているチーム以外の場合は特に)現地での観戦に役立つ生の情報は想像以上に少ないことがある。しかし、この韓国プロ野球観戦ガイドは、実際に現地で見て、聞いて、感じて、買って、食べて、飲んで、騒いで、楽しむための情報が全て網羅されている。選手名鑑も、カタカナ、漢字、ハングルの3種類で表記されているのは初心者にも心強い。時々、蚕室野球場のネット裏席で、スコアブックやスピードガンに加えて、本書を携えた浅黒く日焼けした人物を見かけるが、十中八九は韓国へ選手を調査に来た日本のスカウトであろう。プロも使っているくらいの情報量が詰まっているのが本書である。本書とソウルナビさえあれば、韓国でプロ野球を楽しむには十分である。今春も開幕戦に合わせて、2010年版が出版される予定であり、今から待ち遠しい。

韓国野球の本格的歴史書

韓国野球の源流 玄界灘のフィールド・オブ・ドリームス
大島裕史著 新幹社 2006年 2,000円+税
ISBN4-88400-063-3

日本より遅れること33年、1905年にアメリカ人宣教師ジレットが韓国に野球を伝えて以来の韓国野球史を一気に辿ることができるのが本書である。戦争、南北のイデオロギー対立、そして在日。一般の歴史を見る上で出てくる事柄に対して、野球史もやはり無縁ではない。現在の韓国プロ野球を見る上でも、本書は大きく役に立つであろう。時々、韓国のポータルサイトであるNAVERにも韓国野球の歴史に関するコラムや連載が掲載されているが、本書を読んでから読むと、読むのが楽になるし、より理解が一層深まる。本格的に韓国野球にはまりたい人は必読の書である。

韓国スポーツ界の過去・現在・未来を読み解く羅針盤

コリアンスポーツ<克日>戦争

大島裕史著 新潮社 2008年 1,600円+税
ISBN978-4-10-306981-2

野球のみならず、韓国のスポーツ界全体を捉えたのが本書である。経済発展と共にスポーツ強国となってきた韓国のスポーツ界の歴史と現状について書かれてあるのだが、本書を通じて、知っているようで知らない隣国の姿を見ることが出来る。私自身の経験として、あるとき、前職でソフトボールをやる機会があり、韓国人駐在員も参加したのだが、キャッチボールどころかスポーツをまったくやった事もないと思われる人が見受けられた。また、私が自己紹介で『中学まで野球をやっていました』というと、『野球選手だったんですね。すごいですね』と大げさな返事がかえってくることがよくあった。長く疑問に思っていたのだが、本書を読んで謎が解けた。オリンピックやWBCを見る前に、本書を一読しておくと、以前とは違って見えてくるに違いない。

不滅の大投手の半生記

宣銅烈 真っ向勝負
宣銅烈著 文芸春秋社 1996年 1,359円+税
ISBN4-16-351670-0 C0075 P1400E

韓国プロ野球史上、最高の投手である宣銅烈(ソン・ドンヨル)。1996年にヘテ・タイガースから中日ドラゴンズ入団したのを機に野球人生を振り返ったのが本書である。彼の人生と共に、韓国野球界の裏側や韓国社会が垣間見える。そして、宣銅烈がどれほどのスーパースターだったかが良く分かるエピソードが満載である。前職で世話になった全羅道出身の上司は『宣銅烈のボールをまともにバットに当てるようなバッターは韓国ではほとんど見なかった。日本では打ち返すバッターがごろごろといたのに驚いた』としみじみ話していたが、彼の全盛期にWBCが開催されていたのなら、日本チームは彼の高速スライダーを打てたであろうか。

不滅の古典 その1

海峡を越えたホームラン

関川夏央著 朝日文庫 1988年 520円+税
ISBN4-02-260514-6 C0126 P536E

1982年に創設された韓国プロ野球。その黎明期の韓国プロ野球にスパイスを加え、今日の韓国プロ野球の下味を作ったとも言える在日韓国人選手達の奮闘を丁寧に追いかけたノンフィクション。日本文化と日本プロ野球界で育った選手が『祖国』で経験した汗と涙の物語であるが、改めて2010年に読んでみると、発足当時の韓国プロ野球の姿を読み取ることができる『古典』でもある。1980年代初期の韓国に関心のある方には、同じ著者の『ソウルの練習問題(新潮文庫1988年)』も併せて読むことをお勧めする。この2冊ともに同時期の韓国が描かれており、全斗煥独裁政権下で、ソウルオリンピックを目指して突っ走っていた当時の市井の人々の生活が垣間見られる名著である。

不滅の古典 その2

いつの日か海峡を越えて-韓国プロ野球に賭けた男たち
鄭仁和著 文芸春秋社 1985年 1300円(税別)
ISBN4-16 340110-5 C0075 ¥1300E

『海峡を越えたホームラン』と同じく、韓国プロ野球発足直後の在日韓国人選手達の奮闘を取り上げたのが本書であるが、在日韓国人である著者の視点から書かれた文章には、同じ選手であっても違った素顔が描かれている。

SKワイバーンズ金星根(キム・ソングン)監督の半生記

野神김성근,꼴찌를 일등으로
(野神キム・ソングン、ベッタを一等に)

 김성근(キム・ソングン)著 박태욱(パク・テウク)文 자음과모음(子音と母音社)2009年 13,000ウォン
ISBN 978-89-544-2134-8(03800)

SKワイバーンズの監督は、元在日韓国人であった。1942年に京都で生まれ、日本名『金林星根(かなばやしせいこん)』として高校までを日本で過ごし、野球をするために韓国へ渡った。在日韓国人として、野球人として、数々の困難を乗り越えてきた半生を描いている。高校時代に父を亡くし、在日韓国人として経験してきた差別も取り上げられているので、当然、重い部分もあるのだが、関西人(特に京都出身者)にとっては、高校時代のエピソードの中にある桂川や嵐山、西京極球場などの描写を通じて、金星根監督が身近に感じられる部分も多いかと思う。試合後のインタビューで、淡々と記者の質問に答えるように、淡々とした文章の中にも、野球への熱い情熱の炎が感じられる一冊である。

幻の球団 ヘテ・タイガース

해태타이거즈와 김대중
(ヘテ・タイガースと金大中)
김은식(キム・ウンシク)著 2009年 이상미디어(理想メディア社)12,000ウォン
ISBN 978-89-961-6805-8

 『韓国で一番人気のあるチームは?』と聞かれることがある。この質問の裏には、『韓国の巨人みたいなチームはどこ?』というニュアンスがくっついていることもある。この場合、少々、答えるのが面倒ではある。なぜなら、韓国プロ野球の歴史は、戦力=金力=優勝回数(=全国的人気)ではないからである。ヘテ・タイガース(現・キア・タイガース)は全羅南道の光州市を本拠地とし、全チームの中で最多の優勝回数(10回)を誇る。しかしながら、全羅南道は経済的、政治的に最も貧しいエリアであり、タイガースは金でペナントを買ったことは一度もない。そんなタイガースと全羅南道の近代史を描いたのが本著である。全羅道を地盤とした金大中氏が何度も軍事政権下で抑圧されながら大統領の座に就いた姿と、貧しくとも強かったタイガースの姿を平行させて韓国の近代史を描いた名著である。

 幻の球団 三美スーパースターズ

삼미슈퍼스타즈의 마지막 팬클럽
(三美スーパースターズ最後のファンクラブ)
 박민규(パク・ミンギュ)著 2003年 한겨레신문사(ハンギョレ新聞社) 8,500ウォン
ISBN 89-8431-104-9

贔屓にした球団に、自分の人生を重ね合わせる。これもまたプロ野球ファンとしての宿命ではないかと、思うことがある。私の場合、阪急ブレーブスや斗山ベアーズを贔屓にしたおかげで、今の自分が形成されたのではないか。それとも、自分の性格が、阪急ブレーブスや斗山ベアーズを選び取ったのか。はっきりした答えは出ないが、『地方に住み、テレビで巨人戦だけを楽しんでいる野球ファン』として思春期を過ごしたのであれば、韓国まで野球を見に行くようなファンにはならず、違った人生を歩んでいたのではないかと、言える気がする。前置きが少し長くなったが、本書もプロ野球チームが一人の人間の思春期-青春期に与える影響を考えさせられる長編小説である。韓国プロ野球が発足した1982年に12歳だった少年が、愛してしまったのは地元インチョンを本拠地とした三美スーパースターズであった。結果的に、たった2シーズン半しか存在しなかった三美スーパースターズと共に思春期を迎えた少年の人生はどうなっていくのかを楽しみながら読み取って欲しい。

韓国プロ野球団経営の裏側

최단장의 LG야구 이야기 LG트윈스1990-1999
(チェ団長のLG野球話 LGツインズ1990-1999)
최종준(チェ・ジョンジュン)著 LGツインズ 2000年 8,000ウォン
ISBN 89-89197-01-5

2000年にLGツインズが創立10周年を迎えたのを記念し、球団から発行されたのが本書である。当時の球団代表がインターネット上に掲載したコラムを整理し、球団の歴史を振り返って数々のエピソードを披露している。球団創設時のエピソード、トレードの真相、契約交渉の裏話、子供向けのファンサービスや韓国プロ野球が抱える構造上の問題点まで幅広いトピックスが取り上げられている。韓国語で書かれた野球本としては珍しく、経営者側からの視点で韓国プロ野球の姿を見ることが出来る。

プサンの熱気を感じよう

자이언츠네이션
(ジャイアンツネーション)

이성득(イ・ソンドク)著 도시출판 바오밥(都市出版 バオパップ)2008年 10,000ウォン
ISBN 978-89-961691-0-9

プサンの野球ファンは韓国で最も熱狂的であるとも言われることもあるほど、ロッテ・ジャイアンツのファンは熱い。ソウルにも熱心な野球ファンも居るが、プサンはより熱狂的である。著者は1982年にプサンのロッテ・ジャイアンツに入団し、引退後は、地元プサンのラジオ局KNNで解説者として10年以上もロッテ・ジャイアンツの全試合でマイクを握っている。その解説スタイルは偏向的で、彼の解説は『プサンの声』であり、『ソンドク翁(성독옹)』というニックネームがつけられているという。日本の文化放送ライオンズナイターや関西エリアのタイガース中継というよりも、米国メジャーリーグの放送に近いのかもしれない(メジャーリーグでは、球団所属のアナウンサーと解説者がコンビを組んで全試合を放送する)。そんな彼が紹介するプサンとロッテ・ジャイアンツの物語は、思わずロッテファンになってしまいそうな愛すべきエピソードが満載である。ロッテファン必読の書である。


 *映画*
 

スーパースター☆カム・サヨン [DVD] 
ポニーキャニオン 発売日:2007-02-07 収録時間:113分DVD (ASIN:B000JJSM0W) 

ハリウッド映画では何年かに一度、ホームランとはいかないまでも、そこそこヒットする野球映画が出てくる。私の記憶にあるだけでも、『ナチュラル』、『メジャー・リーグ』、『フィールド・オブ・ドリームス』、『プリティ・リーグ』、『ミスター・ベースボール』、『リトル・ビッグ・フィールド(原題はリトルビッグリーグ)』、『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』、『ザ・ベーブ』、『タイ・カッブ』、『61*』、『二番目のキス』、『オールド・ルーキー』・・・。各作品で比率が変わるものの、涙と笑いと感動が散りばめられていて、野球は面白いスポーツだと感じさせてくれる作品が多い。日本でも時々、野球映画が出てくるが、残念なことに、どうも笑いよりも涙ばかりが強調されてしまう作品が多いように思う。特に高校野球を題材にしたものは、概してエンターテイメントとして楽しむには不向きな映画で、義務教育の道徳の時間に見たほうが良いと思うことが多い。さて、韓国の野球映画で一押しなのが、『スーパースター☆カム・サヨン』である。この映画は、1982年の韓国プロ野球発足時、最下位を独走した三美スーパースターズで敗戦処理を務めていた実在の投手を主人公にした映画である。1982年の韓国プロ野球は6球団で発足したものの選手不足に悩むチームも多かった。ヘテ・タイガースには当初14名しか選手がおらず、3人しか居ない投手陣を助けるために、本来は指名打者の選手が『兼任投手』として登板を繰り返した結果、2桁勝利を挙げていたということもあったくらいである。そんな時代に最下位チームで敗戦処理を務めていた投手が主人公の映画である。当然、涙を誘う場面も多い。しかし、見終わった後は、爽やかな風が胸の中を通り過ぎていく。軍事政権下で逞しく生きる市民の姿、1982年当時のユニフォームや街の様子を再現したシーンにも注目したい。

해가 서쪽에서 뜬다면(日が西から昇るとしたら)
1998年12月公開(日本非公開)


この映画のタイトルの意味は、すなわち『ありえないこと』という意味である。なぜ、そんなタイトルがついているのかと言うと、プロ野球の審判と始球式にやってきた女優が恋に落ちるというストーリーだからである。設定は実際にはほとんどありえないかもしれないが、まったくのおとぎ話には感じないのが、この作品の面白いところである。製作当時のヘテ・タイガースの監督や選手役に本物が出演していたり、LGツインズ主催ゲームのスタンド風景や試合開始時の音楽などが効果的に使われており、蚕室野球場の臨場感がよく表現されているからであろう。少し古い作品なので、職安通りの韓流ショップでも見つけるのが難しいかもしれないが、韓国に旅行に行った際にでも根気よく探してみると良いだろう。



*オマケ*

国立民族学博物館

他に、日本で韓国プロ野球に関するものを見てみたいという方は、大阪府吹田市にある万博記念公園内の国立民族学博物館を訪れると良いだろう。韓国の民族衣装、宗教や風俗に関する展示の中に、スポーツに関する展示もあり、1990年代後半の韓国プロ野球の8球団のユニフォーム(本物)が展示されている。今となっては懐かしい、ヘテ・タイガース、サンバンウル・レイダース、OBベアーズ、現代ユニコーンズなど、消滅したり球団名が変わったチームの貴重なユニフォームを見ることが出来る。現存するチームのユニフォームも旧モデルなので、じっくりと見ておきたい(入場料や開館情報は、ホームページをご参照ください www.minpaku.ac.jp )。



 韓国プロ野球の各球団は、1月中旬から主に日本でキャンプに突入している(韓国語では"전지훈련=転地訓練"という)。選手が開幕戦を目指して調整をする間、私たちファンも本や映画を見ながら開幕戦を待つことにしよう。



*追記という蛇足*
 2009年は、米国メジャーリーグも日本プロ野球も非常に残念な結末を迎えてしまった。出てしまった結果は仕方がないとしても、今後は、お金を払って観に来るファンが納得できるようなリーグとなるように運営して欲しいと切に願う。
 特に日本のプロ野球は、読売王朝の復活という流れにならないように、ドラフト制度とフリーエージェント制度をリンクさせるようなルールをしっかりと確立しなければならないと思う。契約期間が切れた外国人選手だけが簡単にフリーエージェント(球団の保留権が適用除外)となる問題と合わせて、ルール作りが急務である。主語は省略するが、同一リーグの隣のチームからエースと主砲、その隣のチームからクローザーを略奪した上に、ドラフトにも何食わぬ顔で参加し、有望選手をくじ引き(時には裏取引?)で手に入れられる現行ルールは、明らかにアンフェアに見えて仕方がない。アメリカでは、フリーエージェントで下位チームからスター選手を獲得したら、ドラフト上位指名権は下位チームに譲渡するというルールがある。また、アメリカと韓国では、ドラフトは下位チームから無条件に交渉権が与えられる制度にもなっている。日本もこのようなルールや制度にしなければならない。

 2010年は新たに韓国人プレーヤー2名が日本プロ野球に加わることで、韓国のファンからも注目されることになる。日本プロ野球が面白くなる方向に改革が進み、素晴らしいシーズンとなることを切に願う。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2010-02-18

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