デュークが見た!第12回富川国際ファンタスティック映画祭

映画マニア騒然、アジア無双の<最“狂”>な10日間を完全リポート!

アニョンハセヨ、デューク松本です。気付けば夏も残りわずか。韓国の映画界もこの夏にいろんな話題がありましたね。その中でも、去る7月にソウル近郊にある富川(プチョン)市で毎年恒例「富川国際ファンタスティック映画祭」(通称:PiFan)が開催されたのは大きな話題として世界に配信されました。海外の映画業界でもかねてからその個性と内容の充実度、そして規模の大きさが話題になってたんです。そして今回、満を持して念願のPiFanに初参加とあいなりました。するとビックリ、各種映画祭に参加経験を持つこの私でもその<最“狂”>なエナジーに圧倒されてしまうことに。ここでは、灼熱の富川での体感温度をさらに倍増させたエキサイティングな10日間をたっぷりと振り返ってみましょう!
ファンタスティック映画とPiFan
PiFanは「ファンタスティック系」の作品に特化した、他の映画祭とは一線を画す個性的な大型映画祭。「ファンタスティック系」とは日本では俗に「ファンタ系」とも呼ばれ、これは特定のジャンルを指す言葉じゃなく、主にホラー、スリラー、SF、ファンタジー、アクション映画などの一般のドラマ作品とくらべてより娯楽性が高い刺激的な映画の漠然とした総称なんです。しかし、娯楽作といってもその芸術性・普遍性はドラマ作品に負けずとも劣りません(もちろんウルトラZ級映画もありますが)。また、ファンタ系の映画祭はインディペンデント作品や実験的要素が強い作品が集まる事が多く、若き映像作家の登竜門ともなっています。そして、上映作品によるコンペディションも有ります。PiFanはファンタ系の映画祭としては韓国内はもちろん、アジア圏最大規模といえるのではないでしょうか。

同様のスタイルは日本では「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」が有名ですよね。ゆうばりはPiFanと姉妹映画祭で、現在でも深い友好関係があるのです。今回のPiFanのテーマは「愛、幻想、冒険」。世界39カ国から集められた203作品が富川市役所や市民会館などの公共ホールとエリア内のシネコンで上映され、街の至る所に特別ブースが設置、多くの関連イベントが催され、国内外の映画ファンや関係者、富川市民を巻き込んでの一大フェスティバルとなりました。
京畿道・富川市はソウルと隣接していて、日本でいうと埼玉のような立ち位置。市の政策としてマンガやアニメなんかのサブカルチャー振興に力を注ぐ珍しい都市です。ソウルからは地下鉄1号線で直結していて、ソウル駅からの所要時間は40分ほど。それでも福岡から参加した私は博多港からニューかめりあに乗って釜山港へ、KTXで釜山駅からソウル駅へ、そして地下鉄でソウル駅から会場最寄りの松内(ソンネ)駅へ、といった計10時間ぐらいの道中でしたが、その先に待つ未曾有の楽しみに年甲斐もなく妙にテンションが上がってしまいました。
会期途中の参加という事で7月18日の開幕式への参加は叶いませんでしたが、開幕式では会場となる富川市民会館前にレッドカーペットが敷かれ、今回の PiFan広報大使を務める歌手で女優のユジンをはじめ、俳優のアン・ソンギ、ナム・ギュリ、カン・スヨン、クァク・ジェヨン監督、日本の廣木隆一監督や清水崇監督ら豪華セレブが登場、観客の声援に応え式典に華をそえたそうです。開幕式後に上映される開幕作品はイスラエル=フランス=ドイツ合作のパレスチナ紛争を描いた長篇アニメ映画『ワルツ・ウィズ・バシール(原題)』(アリ・フォルマン監督)。これも絶賛だったとか。
翌19日には日本映画『アヒルと鴨のコインロッカー』(中村義洋監督)の上映に合わせて主演の瑛太が舞台挨拶。韓国の日本ドラマファンの黄色い歓声を浴び、その模様は韓国内で大きく報道されました。
日本が誇る現代ホラーの帝王:清水崇監督は作品上映こそありませんでしたが、今回から新たにPiFanが運営する「アジア・ファンタスティック映画ネットワーク(NAFF)2008」への名誉顧問兼講師として参加するための来場でした。NAFFとはアジア発のファンタ系映画の育成と国際的普及を目指すフォーラムで、PiFan期間中の5日間にゼミ、作品の上映、新人作家への表彰などが行われました。
また、PiFan本体では「70年代の香港アクション」と「日活映画撮影所の知られざる歴史」をテーマにしたフォーラムや、香港・日本・タイ・韓国の映画界で現役のスタントマンとマーシャル・アーツ指導者によるワークショップ、韓国の国民的ヒーローアニメ「テコンV」によるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)への支援贈呈式、映画撮影機器の展示会、ケーブル・アクションの体験教室、マンガやファンタ系小説の展示即売会などの各種イベントや企業のキャンペーン、連夜にわたる市役所前芝生広場特設ステージでの野外ライブなどが催され、多くの賑わいを見せてました。特に野外ライブは連日雨天ながら強行され、観客はグシャグシャになりながらも大盛り上がり。前夜祭ライブでは18アーティストが出演し約3万人を動員したとか(野外ライブは全て入場無料)。
なお、会場間の移動は無料のシャトルバスが運行されました。映画祭期間中は会場間を頻繁に行き来する必要があるのでとても便利でした。バスが目的地に到着するとボランティアが両手を振ってPiFan式のお出迎え。ささやかな<ファンタスティック>です。
<上映作品>
セレブを拝むのもいいけど、やはり映画祭に来たんなら映画鑑賞はハズせません。さすがに日本語字幕は付いてないけど、基本的に英語字幕が付いてるし、日本公開前の韓国映画や世界の映画がしっかりチェックできます。しかも、PiFanでかかる映画ってどんなに良作でもそれが後に日本で観賞できる可能性は極めて低いんです。とはいえ、どれも珠玉の秀作ばかり。PiFanが誇る凄腕のプログラマーたちが1年かけて集めてきたその作品の数はなんと203本!まずは今回のセクションからご紹介しますね。

【メイン・セクション】
・プチョン・チョイス(PiFan 2008の基本的ラインナップで、コンペ対象となるセクション)
・ワールド・ファンタスティック・シネマ(世界の最新ファンタ映画集)
・奇妙なオマージュ(過去の偉大な作家や作品に独自の視点でオマージュを捧げた作品集)
・オフ・ザ・ファンタスティック(ファンタ映画の枠を超えた世界の映画集)
・立ち入り禁止区域(韓国での一般上映が困難なほど危険な描写にあふれた作品集)
・ファミリーファンタ(子連れで観賞できるファミリー映画集)
・アニ・ファンタ(アニメ作品集)
・ファンタスティック・ショート・フィルム(短編集)

【特集企画】
・ファンタの帝王:グレッグ・アラキ監督(日系3世アメリカ人の独立系監督グレッグ
・アラキ作品を特選)
・現代ロシアの猟奇映画たち(今ファンタ系映画の世界で最も注目を集めてるロシア産ファンタ映画の特集)
・Q-Rious(新旧あらゆる形のLGBT映画の特集)
・グラインドハウスに行こう(タランティーノ&ロドリゲス監督による映画企画『グラインドハ ウス』に習い、1970~80年代の米国産C級娯楽映画の連続上映を楽しもうという企画)
・反逆者:アジアのアクション映画(韓国映画『MUSA -武士-』から最新のハリウッド映画『ドラゴン・キングダム』まで、アジア産およびアジアン・スター出演のアクション映画特集)

【回顧企画】
・コードネーム・トランス:東亜諜報活劇映画(韓国内では当時「ファルグック(活劇)」と呼ばれ庶民に愛された1960~80年代の韓国産アクション映画の貴重な作品たち)
・創造と革新:日活映画100年史(戦前草創期から最新の日活映画の歴代代表作を韓国で初上映し、その歴史と変貌を振り返る)

さすがPiFan、セクションのカテゴライズも実に個性的でバラエティに富んでます。そして、ファンタ映画の裾野の広さを改めて確認できますね。セクション的には特別企画・回顧企画に今回の傾向がよく見てとれます。特筆すべきは現在の映画のトレンドに敏感に反応した「現代ロシアの猟奇映画たち」と「グラインドハウスに行こう」、そして新たなカルト・ブームを巻き起こす予感ムンムンの「コードネーム・トランス:東亜諜報活劇映画」です。これらの特集は<さすが>の一言。後者に至っては、後に本当にブームになった時「PiFan発だ!」と胸を張って世界に公言できるほどオリジナリティ溢れる企画です。また、「創造と革新:日活映画100年史」への着目も素晴らしいですね。なぜなら世界には過去・現在含め星の数ほどの映画スタジオがありますが、日活ほど永く存在しながら(しかも現存)かつ数奇な運命を辿ったスタジオはとても珍しいからです。詳しくは後ほど。
では、どんな作品がラインナップされていたのでしょうか。国別にみると計39カ国から長・短編あわせ203作品。韓国を除く出品本数の上位5位は日本、アメリカ、フランス、スペイン、ドイツの順です。ラインナップ中、既に日本国内で公開されている外国作品の新作はなんと『美しすぎる母』、『ドラゴン・キングダム』、『ミラクル7号』の3作のみで、PiFanが日本人にとってもいかに貴重な機会かということがよくわかりますね。

PiFan期間中、最も大きな話題を呼んでいた作品は韓国産クライム・スリラー『The Chaser(原題:追撃者)』。これはレオナルド・ディカプリオ主演でハリウッド版リメイクが決定し話題になったヤツですね。韓国内では今年の新春に公開され大ヒットを飛ばしましたが、多くの観客や内外ゲストが「これがダントツに面白かった」と声を荒げていました。もちろん、他の多くの作品も人気を博し、ソールドアウト率は30%(81回)だったとか。
作品によってはゲストによる舞台挨拶(GV)が上映終了後に行われます。主な登壇者は監督とキャスト。欧米作品だと監督のみというパターンが多いですね。 GVの情報は会場で無料配布されている映画祭パンフレットに記載さています。予定の変更もたまにあるので、最新情報は映画祭スタッフに聞けばわかる範囲で教えてくれます。
写真は左上からアメリカ映画『Able Danger』のポール・クリック監督、タイ映画『サイアム・スクエア(The Love Of Siam)』のチューキアット・サックヴィーラクル監督と出演者のウィシット・ヒランヤウォンクン&シンチャイ・ペンパーニット、ベルギー映画『Ben X』のニック・バルサザール監督、韓国映画『コ死:血の中間考査(原題)』主演のナム・ギュリ、ユン・ジョンヒ。

PiFanの観客は一般人だけとは限りません。前序『American Zombie』上映の際に韓流スターのチョン・ウソンさんが個人的に観賞に訪れ、上映終了後それに気付いた観客たちが騒然となったとか。彼も一介の映画人、しかも近々初の監督作の撮影に入るということもあってPiFan作品に関心があるのは当然ですよね。
また、韓国映画史に名を残す鬼才キム・ギヨン監督の最高傑作といわれる『下女』(1960)のリマスター版が上映されたことは韓国内で大きく報じられました。1950~60年代の韓国映画黄金期に人間の極限状態やエゴイズムを赤裸裸に描き「怪物」の異名を持ったギヨン監督ですが、これまで初期作品の多くは保存状態が悪いか遺失してしまってました。しかし、近年同作のプリント原本が発見されると、韓国映像資料院がマーティン・スコセッシ監督率いる世界映画基金(WCF)の後援を受け修復、今年5月に開催されたカンヌ映画祭で特別上映され大きな話題になったのです。それが今回のPiFanで凱旋上映されたというわけでした。それと、回顧企画「東亜諜報活劇映画」特集の最大の目玉であるパク・ノシク監督作『悪人よ、地獄行き急行列車に乗れ(原題)』(1977)は即完売の大人気だったとか。これらの作品、いつか日本でも紹介される日が来るのかな?
日本映画はどれも人気が高く、観賞後の評価も上々でした。韓国では日本映画の人気が根強いですが、それはPiFanでも同様。PiFanは日本とのパイプが太く、今年も多くの独立系日本映画が上映されました。特に今回は映画祭の閉幕を飾るクロージング作品に日本で5月に封切られた日韓合作映画『僕の彼女はサイボーグ』が選出。これは韓国では絶大な人気を誇るクァク・ジェヨン監督の「彼女」シリーズ3部作の最終章、しかも韓国初披露ということもあり、大きな話題となりました。また、前序の通り回顧企画として「創造と革新:日活映画100年史」が併催。これは日活映画の戦前の草創期から60年代の黄金期、70年代のロマンポルノ期、そして現在のミニシアター期までの選りすぐりの名作を集めた企画で、日本国内でも見ることができるのかな~?と思えるぐらいレアな作品チョイスです。アッパレ!
私が上映に参加した日本映画は、現在欧米でカルト的に人気沸騰の『片腕マシンガール』(井口昇監督)と『東京残酷警察』(西村喜廣監督)の2本。両作とも上映時に舞台挨拶があり、前者には国外の映画祭初登場の井口監督と助演女優の亜紗美さん、特殊造型監督の西村喜廣さんが、後者には西村監督、主演の椎名英姫さんとキャストの方々のほか、PiFanに日本映画を送り込むことに大きく貢献されてる映画評論家の塩田時敏さんも登壇し、韓国の若い観客たちから多くの質問とフラッシュ、爆笑と喝采を浴びてました。両作のプロデューサー千葉善紀さん曰く、製作資金は両作ともアメリカで募ったとのこと。大変なご苦労されてるんですね。結果欧米に引き続き韓国のお客さんにも大ウケだったこの2作を通して、日本産ファンタ映画の将来への希望を感じるのでした。

<デュークが特選!観賞作品>

『Able Danger』
監督:ポール・クリック/出演:アダム・ネエ、エリナ・レーヴェンソン/アメリカ/2008年/86分/サスペンス/アジア・プレミア/セクション:ワールド・ファンタスティック・シネマ

�0年代最大のゴシップ「911同時多発テロ事件の米政府陰謀説」に挑んだ現代版ノワールの秀作。ニューヨークを舞台にカフェオーナーの青年が様々な組織の陰謀に板挟みになっていく物語を、陰影が深いモノクロ映像を主に使用し、そのサスペンスに深みと緊迫感を与える。クリック監督は長篇処女作ながら脚本・編集を兼任。斬新なアイディア力と確かな美的感覚、そして揺るぎなき思想を持ち合わせたセンセーショナルなタレントだ。彼の出現は若き日のコーエン兄弟を彷彿とさせる。
『Sarkar Raj』
監督:ラム・ゴパル・ヴァルマ、出演:アミターブ・バッチャン、アビシェク・バッチャン、アイシュワリヤー・ラーイ/インド/2008年/120分/ドラマ/コリア・プレミア/セクション:オフ・ザ・ファンタスティック

地方に持ち上がった外国企業による発電所建設プランを巡り、地元名士と地域社会の混乱を描いた、反グローバリズム的な政治サスペンス。ボリウッド映画界はこれまで全く踊らず歌わずの傑作ドラマを時折排出してきたが、ここまでハリウッド的なプロットの作品は珍しい。これを見ると、インドの映画人もいつかはこのような作品が作りたかった(演じたかった)という本音が垣間見れる気がする。インド本国では今年6月に封切られ、同時期公開の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』に勝る興行的成功を収めた。
『Stuck』
監督:スチュアート・ゴードン/出演:ミーナ・スヴァーリ、スティーヴン・レイ、ラッセル・ホーンズビー/カナダ=アメリカ/2007年/85分/サスペンス/コリア・プレミア/セクション:奇妙なオマージュ

独立系ホラーの巨匠ゴードン監督が描くブラックユーモアに富んだ半密室劇。些細な過ちからホームレス男性を車で轢いてしまった若い女性介護士と、轢かれたままフロントガラスに突っ込み女性のガレージに放置されてしまう男性のサバイバルを描く。テーマは「偶然の悪戯」。各々の些細な不正を糾弾するのではなく、社会の矛盾や不完全性から生じる不幸に焦点を当てる。故に男の反撃に劇場内が沸くも、この女の心情と行動も理解できるように描かれてあるところが巧い。
『片腕マシンガール』
監督:井口昇/出演:八代みなせ、亜紗美、島津健太郎/日本/2008年/96分/アクション/アジア・プレミア/セクション:ワールド・ファンタスティック・シネマ

弟の復讐に燃える片腕にマシンガンを装着した女子高生の活躍を描いたスプラッター・アクション。現在アメリカでカルト的大ヒットを飛ばしている本作の逆輸入的アジア初披露。単に荒唐無稽になりがちな低予算企画を、そのジャンク感を踏襲しつつも恐ろしく緻密なプロットと大胆なアクション、キレがいい編集を用い傑作の域まで昇華させた模範的怪作だ。全篇において終始逆説的に爆笑できるが、現アメリカ政権による対テロ戦争に代表される普遍的テーマ「紛争における負の連鎖」をさりげなく織り込むあたりに鳥肌が立った。
『Transsiberian』
監督:ブラッド・アンダーソン/出演:ウディ・ハレルソン、エミリー・モーティマー、ベン・キングズレー/スペイン=ドイツ=リトアニア=イギリス/2007年/115分/サスペンス/コリア・プレミア/セクション:ワールド・ファンタスティック・シネマ

シベリア鉄道に乗り北京からモスクワまで向かうごく普通のアメリカ人夫婦に降り掛かる数々のトラブルとそこに隠された大いなる陰謀を描く緊迫の犯罪サスペンス。今回のPiFan作品群の中で最も高制作費であろうっこの一本、プロットは起伏に富み、全篇に持続するその緊張感を拭い去ることは極めて難しい。また、要所でショッキングな描写や派手なアクション・シーンも用意され、観る者を飽きさせない。実力派揃いのキャスティングは言うに及ばず。拡大ロードーショーにも耐えうるメジャー性を持ち合わせたハイブリッドな独立系作品だ。(余談だが、本作で故・水野春郎監督作『シベ超』シリーズの完結編を見たと感じたのは私だけだろうか)
そのほか、アンナ・ファリス扮するポッドヘッドの主人公がドンぎまりになったまま珍騒動を巻き起こすコメディ『Smiley Face』(グレッグ・アラキ監督/アメリカ)、生まれつき局部に鋭利な歯が生えている貞操主義の美少女の数奇な恋愛遍歴を描いた『Teeth』(ミッチェル・リヒテンスタイン監督/アメリカ)、インド映画界の舞台裏を描いたボリウッドの王道的恋愛劇『オーム・シャンティ・オーム(Om Shanti Om)』(ファラー・カーン監督/インド)などが楽しく観賞できました。短編ではシュール作『Lisa』(ロレンゾ・レシオ/フランス)が強く印象に残りました。
<パーティー>
期間中は連夜、映画祭主催のパーティーが催されました。これが盛り上がるか否かは、その映画祭にとって世界の映画人の国際的関心度を左右する重要なポイントです。そして、ここでの出会いが新たな作品制作へと発展することも珍しくありません。PiFanも世界各国から多くのゲストや映画会社、報道関係者が来場し、意見・情報交換や雑談に華を咲かせ交友を深めていました。閉幕式の直後に催された閉幕パーティーでは、なんと富川市長自らが来場者ひとりひとりに挨拶に回るという熱心さ。運営側のただならぬ熱意が感じられます。
<閉幕式>
7月25日に閉幕式が開催されました。PiFanの開催期間は27日までですが、会期途中に閉幕式をやるのがPiFanの慣例だとか。この日もレッドカーペットが敷かれPiFan広報大使のユジンや女優のソ・ヨンヒ、クァク・ジェヨン監督、映画『マトリックス』シリーズにも出演した香港のアクション・スター:コリン・チョウ、および各国セレブがご登場。日本からは『片腕マシンガール』&『東京残酷警察』組に加え、『真・女立喰師列伝』の舞台挨拶で PiFan参加のひし美ゆり子さんが喝采を浴びてました(韓国人観衆もアンヌ隊員をよく知ってるみたい)。
式典は開幕式同様2005年に韓国でヒットしたホラー映画『ヴォイス』のチェ・イックァン監督と主演女優ソ・ジヘのコンビ。ハン・サンジュン映画祭実行委員長とイ・ドヨン審査員長のご挨拶のあと、コンペ部門の受賞結果が発表されました。作品賞は下馬評通りクライム・サスペンス『The Chaser(仮題:追撃者)』が受賞。同作は他に主演女優賞など計3部門を制し、名実共に今回のPiFanを象徴する作品となりました。監督賞と観客賞はスウェーデンのロマンティック・ホラー『Let the Right One In』へ、主演男優賞はなんとシンガポールの心霊サスペンス『Rule Number One(原題:第一誡)』から主演の香港男優2人が同時受賞の快挙を成し遂げました。日本からは『東京残酷警察』がコンペ外ながら特別賞の栄誉に輝きました。最後にホン・グンピョ富川市長の閉会の辞でセレモニーは終了し、閉幕作品『僕の彼女はサイボーグ』のクァク・ジェヨン監督が舞台挨拶、本編が韓国初披露され厳かに式典の幕が下ろされました。

《PiFan 2008 受賞結果》

・作品賞(ベスト・オブ・プチョン)
『The Chaser(仮題:追撃者)』監督:ナ・ホンジン(韓国)

・監督賞
トーマス・アルフレッドソン『Let the Right One In』(スウェーデン)

・主演男優賞
イーキン・チェン&ショーン・ユー(W受賞)『Rule Number One(原題:第一誡)』(香港/シンガポール)

・主演女優賞
ソ・ヨンヒ『The Chaser(仮題:追撃者)』(韓国)

・審査員特別賞
『Fear(s) of the Dark』 オムニバス(フランス)

・欧州ファンタスティック映画祭連盟(EFFFF)アジア映画賞
『The Chaser(仮題:追撃者)』監督:ナ・ホンジン(韓国)

・観客賞
『Let the Right One In』監督:トーマス・アルフレッドソン(スウェーデン)

・短編作品賞
『The Facts in the Case of Mister Hollow』 監督:Rodrigo GUDINO(カナダ)

・短編審査員特別賞
『Schausteins Final Film』監督:Christian KLANDT(ドイツ)

・短編観客賞
『A Coffee Vending Machine and Its Sword』監督:チャン・ヒュンユン(韓国)

・短編韓国作品賞
『A Coffee Vending Machine and Its Sword』 監督:チャン・ヒュンユン(韓国)

・特別賞
『ヘンゼルとグレーテル』監督:イム・フィルスン(韓国)
『東京残酷警察』監督:西村喜廣(日本)

《作品賞受賞作紹介》
『The Chaser』(原題:추격자、日本語仮題:追撃者)

監督:ナ・ホンジン/出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ソ・ヨンヒ/韓国/2008年/123分/韓国封切:2008年2月14日


さて、いかがでしたか?初参加のPiFanでしたが、作品上映会場はどこも大賑わいでとても楽しい参加ができました。今回は連日の荒天に見舞われ野外上映はじめ多くのイベントが中止に追い込まれたのはとても残念ですが(特に『ベン・ハー』の野外上映の中止には涙!)、サブカルチャー系って韓国人は苦手な分野では?という誤解も見事に払拭されたし、熱心なボランティアの方々にも多く助けられ、とても充実した参加ができました。

そして、特に印象に残ったのは、映画祭はやはり「お祭り」だという事実。当たり前ですが、どんなに立派な作品ラインナップが用意されてても、そこに来るお客さんが高揚感や参加後の充実感を感じ得えなければ映画祭としては残念だといえます。それにはいかに映画ファンに愛される、いかに市民に愛される映画祭を目指さなければならないかということを韓国の映画祭を訪れる度に、特にこのPiFanから学んだような気がします。

また、日本の作品が多く出展されてたからか、日本の報道関係者がとても多かったのには驚きました。今回は海外プレスが大幅増といいますから、それだけ世界から、特に日本からの注目が集まったたんでしょうね。ご存知の通り、PiFan開催直前には竹島問題が再燃し、多くの日韓交流イベントが中止を余儀なくされました。そんな中、日本の関係者をとても温かく、かつ熱心に迎え入れてくれたPiFanの懐の深さに深く感服しました。やはり「映画文化は世界の共通言語」、「映画を愛する心に国境はない」ことを改めて気付かされた貴重な今回のPiFan体験でした。

各国の映画祭に足を運ぶ私としてPiFanは独立系映画祭として有名な米サンダンス映画祭に匹敵する、いやそれ以上に素晴らしい映画祭でした。もちろん機会があれば来年以降も是非参加したいですね。みなさんも来年のPiFanに是非足を運んでみてはいかがですか?あなたの映画の世界感が大きく変わること間違いないですよ。以上、富川を発つ日に市内にある映画村「富川ファンタスティック・スタジオ」でノスタルジーに浸ってたデューク松本がお届けしました~!
第12回富川国際ファンタスティック映画祭
12th Puchon International Fantastic Film Festival
제12회 부천국제판타스틱영화제
主催:富川国際ファンタスティック映画祭実行委員会、富川市

実行委員長:ハン・サンジュン
期間:2008年7月18日~27日(ただし閉幕式は25日に開催)
会場:富川市役所大講堂、富川市民会館、ボクサゴル文化センター、CGV富川8、プリモスシネマ・ソポーン、富川市役所前芝生広場特設スクリーン
上映本数:203本(長篇124本、短編79本)
出展国数:39カ国
上映回数:270回(完売81回)
ゲスト数:1978名(前回比12.7%増、国外ゲスト前回比44%増)
舞台挨拶数:66回
観客動員数:4万4409人
平均座席占有率:66.7%
ボランティア数:300人以上
入場料:一般5,000ウォン、開・閉幕式+開・閉幕作品観賞各10,000ウォン、朝1回目上映4,000ウォン、深夜上映10,000ウォン(2~3本立て)、芝生広場特設スクリーン無料
公式サイト:http://www.pifan.com/(韓国語/英語)

※この記事は優れた作品選定を披露してくれたPiFan編成チーム、特に私をPiFanに誘ってくれたクォン・ヨンミン氏に捧げます。

その他情報

※一部の写真はPiFanから提供いただきました。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2008-08-26

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