「傷心の百潭寺(ペクタムサ)の旅」(後編)

みぽりん一家もチョン・ドゥファン氏の後を追って百潭寺へ

ポクポクぽくぽく。。おにゃおにゃおにゃ。。
寝ぼけ眼の私は読経の声で目を覚ましました。時計を見たらまだ朝の4時です。ベクタム寺では朝4時。昼の10時。そして夜の7時と一日に三回読経の時間が決められていたのです。外はまだ真っ暗だったのでもう一回寝なおして。。とも思いましたが、一回起きてしまうとなかなか眠れないものですね。そうこうしている内に5時半になり早朝のお勤めも終わり、食堂に移動する音がしてきました。さあ!6時から朝食です。これを食べ損ねたら、昼まで食べ物はありません。子供達も私の鶴の一声で起き出し、すぐに食堂へと直行しました。「昨日の夜は若布のスープだったから今度はテンジャンチゲが食べたいな。」「うんうん」と楽しい会話を交わしながらその日のメニューを見たのですが、むむむ。。
朝食のメニューは、酸っぱいキムチ。きゅうりの塩漬け。大根の醤油漬け。そしてまたしても若布スープでした。このごま油もにんにくも肉も煮干もダシも何も入っていない醤油ベースの若布のスープはかなり不味いのです。子供達もぶつくさと文句を言い始めましたが、これしか食べ物がないのですから、どうしようもありません。朝の6時という驚異的な時間にも関わらず、黙々と食べ続けました。ところで周りを見回すと、昨日の夕食時にはいなかった面々が見えます。登山装束に身を固めた中年の女性がこれからデチョンボン(大青峰)に行くんだと話しているのを小耳に挟んだのですが、登り19キロの8時間コースとのことでした。デチョンボンの山頂には山小屋があって、一泊二食付き1万ウォンで泊まれるのですが、こちらのメニューは若布スープとご飯だけだけど、山頂で食べる若布スープは物凄く美味しいと言っていました。この程度のお食事で文句を言っているようでは、まだ修養が足りないようです。
ベクタム寺の周辺
ベクタム寺の前に素晴らしい池があるのは前にもご紹介しましたが、ここは子供達の素敵な遊び場になりました。水量が豊かで、透明な川の流れを相手に午前中はずっと水遊びに夢中になっていました。
ベクタム寺付属の喫茶店です。お土産と、アイスクリーム、伝統茶などが売られていて、私はテチュ茶(3000ウォン)を注文しましたが、甘くて、とても美味しかったです。
そうこうしているうちに信者じゃない私はすっかり飽きてしまいました。心の修養。休息の旅とはいっても、まだ若いし、力も有り余っているので、一日中大人しく座っているのなんて我慢が出来ませんよね。それに朝食が早かったので、お腹空いてたまりません。頭の中はお昼ご飯のことでいっぱいで、11時きっかりに食堂に突進しました。お昼は1000ウォンでククスが食べられるのです。
このククスですが、キムチベースのスープで、さっぱりしていて結構美味しかったです。でももっと沢山食べておけば良かったです。ククスは消化が良いので、すぐお腹が空くということを忘れていた私達は、この日の午後中空腹と戦うことになるのでした。
昼食を終えてから、渓谷に沿って上流に登ってみることにしました。ベクタム寺の前を流れる清流は、上流に登るに従い、だんだん細く、激しい流れに変わりましたが、白い岩と、清い水には全く変わりがありませんでした。
こんな川で一度思いっきり泳いで見たい!という衝動に駆られましたが、流石に出来なくて、子供達だけ水辺で遊ばせました。ところでふと横を見ると、6人連れの登山グループが突然服を脱ぎ始めたではないですか!そして泳いでいるのですよ。捕まったら罰金なのにいい度胸ですね。このおじさん達に勇気付けられたうちの娘達も、キャーキャー言いながら太ももまで水に浸かっていましたが、これも実は法律違反で、しばらくして巡回に来た国立公園の管理人さんにめちゃくちゃ怒られてしまいました。
空は透き通るような青空だし、水は手ですくって飲めるほど綺麗だし、言うことありませんでした。自然って人の心を和ませるね、なんて和気藹々と会話を交わしながらすっかりいい気分になってしまいました。そしてふと道端を見ると、「あ!リス」リスがすぐ目の前まで来るではありませんか。ちっとも人間を恐れないで、あどけない目つきで見つめるのです。子供達はすぐにポケットから食べ残しのお菓子を出したところ、手からもらって食べるではありませんか。かわいいーー。
ゆっくり川辺で遊び、お寺に帰って来たのは午後の3時頃でした。子供達はまた池に遊びに行き、私達はお寺の庭や空をぼんやり眺めていたのですが、時間が経つに連れて、空腹感は耐えがたいものになってきました。夕食までまだ3時間もあるのに、一体どうしたらいいのでしょうか。私の頭の中には小魚の炒め物やらナムルやらテンジャンチゲやらキムチチゲやらカレーライス、スパゲッティー、お寿司と食べたいものが次から次へと浮かんでくるのです。ここにスーパーも食堂も何もないという事実が一層空腹感を刺激するようでした。子供達はリスにお菓子をあげないで取っておけばよかったと、かなり悔やんでいる様子。その上お布団の中にどうやら虫がいたようで、あちこち刺されて赤く腫れてしまったし、昨日からお風呂に入っていなかったので、頭や背中がむずむずするし、雨が降って寒くて堪らないし。。。テンプルステイというのはやっぱり修養の一種だったようです。
5時だ。5時30分だ。40分だ。あと10分。5分。ジャスト6時に食堂に駆け込んだのですが、なんと!!山のようなおかずが並んでいるではないですか。これはどうしたのかと、狂喜して食べようとしたところ、「まだ駄目です。今日の特別ゲストの方々が先です。」と追い払われてしまいました。その日は仏教系教授セミナーがあって、この美味しそうなおかずはその人達の為のものだったんですね。でも私達だってあの人達と同じお客さんじゃないですか?どうして差別するの?お寺でもそういうことってあり?と恨めしげな娘達を尻目に、どんどんおかずはなくなっていってしまいました。それでも昨日の若布スープとタクアンは比較にならないくらい美味しい夕食を、お腹一杯詰め込みませていただきました。おかげでお腹は一杯になりましたが、これってちょっと難民っぽかったりしてね。
 
このようにベクタム寺の二日目も無事終わろうとしていましたが、飢えと寒さと虫に苦しめられた私達は、雨のしとしと降る夜空を見上げながら、明日一番で山を下りよう。そしてお腹一杯ご飯を食べて、それからお風呂屋に行って暖かいお湯にあごまで浸かろうと堅く決意したのでした。傷心が癒えたかどうかは分かりませんが、三度のご飯の有り難さは身にしみて感じてしまいました。修養って何時でも誰にでも出来ることではありませんね。また来ようか?なんて冗談交じりに言ったところ、一斉にいやーな顔をされてしまいました。終わり。

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記事登録日:2002-09-23

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