しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第2回「選手の名前」

前回はイヤーブックの話。今回の話は選手の名前について。韓国の球場ではスターティングメンバーが入場したときに既にスコアボードに発表されている。アメリカでも日本でも試合開始30分くらい前に指向を凝らしたメンバー紹介があるので、これは韓国独特と言って良いだろう。そのスコアボードには当然、ハングルを使って名前が書いてある。スコアボードだけではない。ユニフォームの背中の背番号の上もハングルである。  
イヤーブックにはハングルと英文で選手名が記載されていることが多いものの、英文表記をそのまま読んでも、実際の発音を想像するのが難しいことが多い。例えば、『チェ』は『Choi』、『チョン』は『Jeong』だったりする。これはなにも韓国語だけではなく日本人選手もアメリカに行くと、多くの場合は英文表記の発音がローマ字読みと違うため、所属球団から読み方をプレスリリースされるくらいである。母音の発音が特に難しいらしく、元ヤンキースの伊良部選手は『アイラブ』、元メッツの吉井選手は『ヨシー』、イチロー選手も『エイチロー』に近い発音で渡米当初は呼ばれていた。吉井選手の時は試合の中継中、アナウンサーがいつもは変化球やフォームのチェックに使うチョークボードという画面に図を書き込む機能を使って、吉井選 手のユニフォームの背中を大写しにして、「今日、プレスリリースがあって『YOSHII』のIIが並ぶところに『H』を挟んだ感じで読むと、本来の日本の読み方である『ヨシイ』と上手に読めるそうです。テレビの前の皆さん、さぁ、やってみましょう!」などと実況していたくらいである。  
話を韓国に戻そう。背中のハングルはだいたいフルネームで3文字が均等に並んでいる。実はこのフルネームというのがミソ。理由は、次に私が韓国で初めて見た試合である1997年8月5日のLGツインズ対OB(現:斗山)ベアーズのメンバーを紹介するので見ていただくとわかるだろう。
OB
(6)キム・ミンホ
(9)チャン・ウォンジン
(指)イ・ジャンフン
(7)キム・サンホ
(3)キム・ヒョンシク
(2)チン・ガビョン
(4)イ・ミョンス
(8)パク・サンヒョン
(5)イ・ジョンミン
Pパク・ミョンファン
LG
(6)ユ・ジヒョン
(7)トン・ボンチョル
(3)ソ・ヨンビン
(7)シム・ジェハク
(8)イ・ビョンギュ
(指)ホ・ムネ
(5)シン・グクァン
(2)キム・ドンス
(4)パク・ジョンホ
Pチェ・ヒャンナム
LGはともかくOBはキム、パク、イが複数いるのがわかる。それもそのはず、実は韓国人の姓は確認されているだけで285種類であり、キム、イ、パク、チェ、チョンの5つの姓だけで人口の55%を超える。したがって、日常生活でもフルネームで呼び合わないと不便なのだ。もしユニフォームにローマ字で姓だけで表記することにすると多くの『KIM』選手や『PARK』選手が並んでしまう。名前の頭文字を入れても、上記OBの3人の『KIM』選手はそれぞれ『M.H.KIM』『S.H.KIM』『H.S.KIM』となってしまい、これでは分かり難い。オリンピックやワールドカップなどの国際試合の場合はこの表記方法が使われているがハングルを読めない人以外には不親切である。やはり韓国人の名前はハングルでフルネームが基本なのである。   では、ハングルが読めない日本からの観光客はどうすればいいのか?そんなときは、英文の選手名が入っているイヤーブックと旅行ガイドに付いているハングル−カタカナ対応表などを持って応援団の席に座るのをお薦めする。そしてバッターが打席に入るたびに始まる応援に耳を傾けると、選手の名前が分かるはず。それでも分からないときは、周りの人に片言の英語でも良いから聞いてみよう。親切に教えてくれるはずだ。ひょっとするとそこから日韓野球会談が始まるかも知れないぞ。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2001-09-28

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