しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第27回「祝韓国プロ野球30周年!2011年版韓国プロ野球年鑑とガイドブックから見えてくるもの」

いよいよ開幕する2011年シーズン。みなさん、準備はok?

♪青空に輝くスタジアム フィールドに浮かぶユニフォーム 子供の頃に夢見た姿は 今も昔も変わらぬままさ・・・♪
 春が近づいてくると、パシフィックリーグの連盟歌である『白いボールのファンタジー』の歌詞が思い浮かんでくる。長い冬を経て、春が来たら野球が始まる。私にとっては、花見や新学期と同じように、野球は春が運んでくるものだ。これは野球を愛する国では共通するものだと思う。

今年も、春風と共に南の方から、キャンプ情報が聞こえてきた。北海道日本ハムファイターズに話題のルーキーが入団したおかげで、朝晩のニュースでは、パ・リーグの話題が中心であった。おかげで、連日、パ・リーグの主力選手の動く映像がお茶の間に流された。ここ数年、キャンプ地である沖縄や九州では、日本と韓国の球団の間で練習試合も多く組まれているのだが、そのルーキーの熱気に便乗して、パ・リーグのエース級投手対韓国チームの対戦の模様も映像として見ることが出来た。毎朝、朝食を食べながら見ているNHK『おはよう日本』で、ファイターズの斎藤佑樹対パク・ハンイ(三星ライオンズ)、西武ライオンズの涌井秀章対キム・ヒョンス(斗山ベアーズ)というような夢の対決を見ることが出来たのは画期的であった。こんなシーズンの始まり方は初めてである。一昔前まで、メディアは、セ・リーグ某球団のニュースばかりを熱心に取り上げ、『某球団の某監督が他チームの主砲を引き抜いてきたおかげで、背番号を現役時代の背番号である3番にしたシーズンのキャンプで、ウィンドブレーカーを脱いで3番と刺繍されたユニフォームを披露してノックをした』だけの実につまらない映像が数百回も流される一方で、パ・リーグのニュースは皆無に近かったことを考えれば、平和な良い時代になったものだと思う。

さらに、今年は韓国のスター選手3名がパ・リーグに加わった。そのうちの2名、パク・チャンホ投手(元ロサンゼルス・ドジャース他)とイ・スンヨプ内野手(元・三星ライオンズ、千葉ロッテマリーンズ他)の2名は大阪の球団に入団した。2004年にオリックス・ブルーウェーブが消滅して以来、オリックスには裏切られたという思いがあり、個人的にグッズとチケットの不買運動をしていたのだが、韓国人スター選手2名を入団させてくるとは、予想外であり、私には衝撃的だった。吉本新喜劇の山田亮のギャグで『許してやったらどうや』というのがあるが、1998年夏に、胸にDodgers、背中に#61 PARKとプリントされたTシャツを着て高麗大学語学堂で韓国語を勉強していた私に向かって、野球の神様が『許してやったらどうや』と言っているのか?妻に聞いてみたら、『オリックスさんも、いつまでも怒らんとってぇなって言うてはんねや』と言う。まだ、オリックス・バファローズを応援する気にはならないが、不買運動を止め、パク・チャンホ投手とイ・スンヨプ内野手の二名は応援することにした。早速、和解と言っては何だが、3/9(水)に大阪ドームへオリックス・バファローズ対千葉ロッテマリーンズのオープン戦を観に行き、妻と自分用に#61 PARKとプリントされたTシャツを買い(残念ながら息子のサイズのものはなかった)、韓国に住む友人にも韓国人選手のグッズを購入し、EMSでソウルへ送ることにした。
 
#61 PARKとプリントされたTシャツ。思わず衝動買い

#61 PARKとプリントされたTシャツ。思わず衝動買い

KOREA BASEBALL 1997年8月号 力投するパク・チャンホ投手が表紙を飾っている

KOREA BASEBALL 1997年8月号 力投するパク・チャンホ投手が表紙を飾っている

 
 職場の机の上には、韓国の友人から頂いた斗山ベアーズカレンダー(公式戦日程付き)も置かれ、あとは指を折りながら、開幕戦を待つばかり・・・であった。そして3月11日がやってきた。日本のペナントレースの開幕は4月12日と決まったが、一日も早く、日本全国で野球が楽しめるように復興して欲しいと願っている。生活があっての野球である。本来、野球が楽しめるというだけで、とても幸せなことで、感謝すべきことなのだと改めて感じさせられている。とりあえず、韓国では通常通りにペナントレースが始まるので、本稿を書き進めることにするが、被災地の復興を心から祈っている。
2011年ベアーズカレンダー。公式戦日程と選手の誕生日が載っている

2011年ベアーズカレンダー。公式戦日程と選手の誕生日が載っている


 2011年の韓国プロ野球は、記念すべき30年目のシーズンを迎える。1982年に6球団、各チーム80試合のペナントレースに1,438,768名のファンを集めてスタートした韓国プロ野球。軍事政権が、市民の関心を民主化運動からスポーツに向けさせるために創設されたのだが、今日では、韓国の国民的レジャーとして、確固たる地位を築いた。2010年シーズンには、史上最多の観客動員となる5,928,626名が球場に詰め掛けた(8球団、各133試合)。このデータを挙げるだけでも、この30年の韓国プロ野球の成長がお分かりいただけるかと思う。

今回に限らず、私の原稿には、韓国プロ野球のさまざまデータが紹介されているが、これらの数字が簡単に引っ張り出せるのは、インターネットの発達だけが原因ではない。実は、韓国プロ野球のデータが網羅されているプロ野球年鑑という本が、毎年、韓国野球委員会(KBO)から発行されており、そこには興味深いデータが数多く収録されているのだ。日本でもベースボールマガジン社が毎年発行している日本プロ野球レコードブックがあり、公式戦全試合のボックススコアや、ポストシーズンの詳細な記録が収められているが、同じような本が韓国にもあるのだ。2011年版の年鑑は、先日、前職時代の友人からEMSで送られてきた。早速ページを開いてみると、興味深いデータが数多く載っていた。
2011年韓国プロ野球年鑑の表紙

2011年韓国プロ野球年鑑の表紙


 そのひとつが、先ほど挙げた観客動員数のデータである。韓国プロ野球は、発足当初から実数での観客数データが残っており、観客動員数のデータだけでも様々な角度から分析できるデータが載っている。前年対比の入場収益現況(入場者数、売上金額)、チケット種別の観客数(有料入場者、敬老・軍人優待者数、子供会員入場者数)、球団別入場者数(ホーム、ビジター別の観客数と入場料収入)、月別、曜日別観客数、球団別の対計画観客動員実績、歴代年度別観客動員と入場料収入(各球団別)、球場別観客動員数、等々。他には、KBOの定例理事会の議事録が載っていたり、ポストシーズンやアジア大会の公式記録員記入のスコアカードのコピーが見開きページに掲載されていたり、日本のレコードブックにはない貴重なデータが盛りだくさんの、野球好きにはたまらないデータ集である。

 これらのデータを見ると、どの球団が入場料収入を多く得ているのか、どの球団に人気があるのかといったことが読み取れる。例えば、観客動員が一番多かったロッテ・ジャイアンツはロードでも観客動員が多いとか、本拠地球場の規模が大きいソウル(チャムシル)、インチョン、プサンを使用する斗山ベアーズ、LGツインズ、SKワイバーンズ、ロッテ・ジャイアンツと、最大収容人員が1万名程度である他の4球団との入場料収入格差が非常に大きいこと、キア・タイガースは本拠地での入場料収入よりもビジターゲームでの入場料収入が多く、特にネクセン・ヒーローズの本拠地であるモクトン球場では多くの観客を集めている(韓国プロ野球はビジターチームに一定比率で入場料収入を分配している)ということが分かる。ロッテのビジターゲームでの観客動員や、球場の規模による収入格差は、だいたい予想していた通りのデータであった。しかし、チャムシル球場よりもモクトン球場で飛び抜けてキア戦に人気が集まっていたとは知らなかった。ソウルの東部よりは、西部にキア・タイガースのファンが多いのかもしれない、つまりタイガースの本拠地である光州からソウルへ移住した人々はソウルの西側に多く住み着いているのかもしれない・・・というように、この本のページをめくるたびに勝手な想像が膨らむのだ(チャムシル球場はソウル市の南東部にあり、モクトン球場は西部に位置している)。

 入場料収入の話が出たついでに選手の年俸の話もしておこう。野球ファンならご存知だと思うが、どの国のどのリーグでも、プロスポーツ球団の収入源は、主に入場料、グッズなどの商標権ビジネス(マーチャンダイズ)、テレビやラジオ、インターネットの放送権料、スポンサー料、球場を中心とした物販である。一方、支出は主に選手の年俸である人件費が多くを占めている。韓国と日本のプロ野球の場合、親会社からの支援があるので、単に入場料収入の多寡と選手の年俸水準は必ずしも相関関係にあるわけではないが、2010年の入場料収入が最も多かった球団と最も少なかった球団の例を見てみよう。最も入場料収入が多かったのは、斗山ベアーズで、ホームゲームとビジターゲームの合計で約78億192万ウォンであった。最も少ないのは韓火イーグルスの26億7000万ウォンで、その差は3倍近い。入場料収入が多かった斗山ベアーズは、年俸総額ランキングでは5位(約45億4900万ウォン)で、ペナントレース3位の成績を勝ち取っている。韓火イーグルスは、年俸総額(約26億8800万ウォン)もペナントレース順位も最下位の8位。優勝したSKワイバーンズは年俸総額でも1位の約59億2900万ウォンであるが、入場料収入は4位の約54億3792万ウォンである。斗山ベアーズは大都市であるソウルを本拠地としている有利さはあるものの、費用対効果に優れていることが分かる。最も、これらの年俸に関するデータは新人と外国人選手の年俸は除外されて計算されているので、一概に言い切れるものではないが、ファンからすると自分が応援するチームがどんな方向性を持って球団を運営しているのかを見る指標にはなる。

日本のように、入場料収入も年俸も公表されたデータが一切なく、推測するしかない場合、カネに関する部分もスポーツ新聞の報道などから邪推するしかない。多くのファンが、親会社がケチだ貧乏だと言われている球団と、裏金も含めた潤沢な資金力を自慢する金持ち球団が戦っているという構図を長年抱き続けているかと思う。実際は、親会社がケチなのではなく、親会社が子会社である球団を連結決算に組み込み、上場企業としてコンプライアンスを守るために、FA選手や新人の獲得にあたって領収書の出せないような裏金を捻出できないという事情もあるようだ(これは上場企業である親会社が球団を持つ韓国も事情は同じだろう)。そんな時代になっても、日本プロ野球では、裏金が捻出できないのは企業努力が足りないだけと言わんばかりに、某球団が2年続けてパ・リーグ球団からの指名を拒否させてまで某選手を獲得するというようなドラフトの精神を踏みにじる事件が起きている(しかも、その某選手は昨年、記者投票によって新人王を獲得したらしい)。同じ球団が起こした悪名高き江川事件から30年以上経っても、不公平なドラフト制度は一向に改善される気配がない。それに比べると、韓国プロ野球は米国のプロスポーツのように、ドラフトは下位チームから指名権を獲得できるシステムになっているし、放映権料や商標権もコミッショナー(KBO)が一括管理し、全球団に分配されるので、親会社の資金力が戦力と必ずしも比例していないところに好感が持てる。あとは首都圏と地方チーム間の入場料収入格差を埋める努力が必要であるが、この数年の間に、キア・タイガースの本拠地である光州と三星ライオンズの本拠地である大邱に収容3万人規模の新球場が建設されることが決まった。年俸も収入もまだまだ日本に比べると低いのは事実だが、少しずつ差は縮まってくると思う。しかし、韓国プロ野球には、ニューヨーク・ヤンキースや読売ジャイアンツのような球団が無いという魅力は失って欲しくはない。
2011年韓国プロ野球ガイドの表紙

2011年韓国プロ野球ガイドの表紙


 もう一冊、2011年度韓国プロ野球ガイドブックという本も併せて友人から送られてきていたので、こちらも紹介しておこう。同じく、KBOが発行しているもので、日本で言う選手名鑑である。各選手、監督、コーチの顔写真、身長・体重、経歴、簡単な記録、年俸などが載っている。日本と同じように、INとOUTという欄に新入団選手と退団した選手が纏められているのだが、日本と異なるのは、軍に入隊した選手、軍を除隊した選手が掲載されていることである。そういえば最近、あの選手を見かけなくなったなと思って調べると、兵役に行っていたという事実が判明する・・・日本では想像できないが、これも韓国プロ野球である。

入隊した選手が所属する軍隊(尚武=サンムという)と警察庁のチームはファームリーグ(韓国ではフューチャーズリーグという)に所属しているため、この2チームのページもあるのだが、全ての軍保留選手が所属しているわけではないので、サンムと警察庁に入れなかった選手は、兵役期間中、どのように野球を続けているのかと心配になる。かつて1996年までは、範囲兵制度というシステムが存在し、兵役期間中であっても、ホームゲームに限っては出場が認められていたのだが、現在ではそのような制度もなくなり、兵役に行くと2シーズンはチームに戻ってくることが出来ない。

私が応援する斗山ベアーズの場合、2010年はライトを守ることが多かった俊足のミン・ビョンホン選手が警察庁へ行き、2009年のドラフト一位指名選手のソン・ヨンフン投手が肘の手術で当分の間プレーできないこともあって軍へ入隊したようである。来年以降は、長打力が魅力の一塁手であるチェ・ジュンソク内野手、2010年はキム・ドンジュ選手に代わって3塁を守っていたイ・ウォンソク内野手、左腕の中継ぎイ・ヒョンスン投手などが入隊を控えている。その意味でも、今年は是非ともベアーズに韓国シリーズ優勝を果たして欲しいと願っている。

既に韓国では、KBOが30周年を記念した写真展やレセプションといった行事を開催しているというニュースも入ってきた。他にも様々な30周年関連イベントが行われるという。4/2(土)の斗山ベアーズ対LGツインズの開幕戦のチケットは予約受付開始1時間で売り切れたくらい、今年の韓国プロ野球は盛り上がってきているようである。ペナントレース開幕が待ち遠しい。さぁ、プレイボール!!
 

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2011-04-08

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