しばさきのキムチとバット~日韓野球考・第14回「プレーオフは注目!インチョンの龍」

日本のパシフィックリーグでも3位以内に入ったチームでプレーオフが行われるが、このプレーオフ制度の原型となったのは、韓国プロ野球のプレーオフシステムである。8球団中4位以内に入ればプレーオフに進出できる。まずは4位チーム対3位チームが5回戦制(3勝で勝ち抜け)の準プレーオフを戦い、その勝者が2位チームと5回戦制(3勝で勝ち抜け)のプレーオフを戦い、勝てば1位チームとの韓国シリーズに出場できる。日本では第一ステージとして行われる3位チーム対2位チーム(2勝で勝ち抜け)の対戦の勝者が、1位チームと第二ステージ5回戦制(3勝で勝ち抜け)を戦うことになる。昨年は2位チームの西武ライオンズが1位の福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)を破り、勢いに乗って日本シリーズでも中日ドラゴンズを破り、1992年以来の日本一に輝いた。

ここで議論になったのが、ペナントレース1位のホークスが可哀想だという点である。確かに一理はある。しかしながら韓国のプロ野球を見る限り、『強い者は何をやらせても強い』ものである。事実、現行のようなプレーオフ制度が行われるようになった1986年から2004年の19シーズン(注:1999年、2000年は変則二リーグ制)でペナントレースを制覇したのは14回。下位チームが一泡をふかすことが出来たのはたったの5シーズンだけである。つまりは試合の『間隔』が開いて、『感覚』が鈍ろうと強い王者は強いものである。ポストシーズンで敗れるのはペナントレースの成績がまぐれだったと言うのは言い過ぎかも知れないが、泣き言を言う前に勝てば良いのである。

5シーズンの下位チームによる『どんでん返し』の内訳を見てみると、なんとペナントレース2位チームが二回、3位チームが二回、4位チームが一回という割合で韓国シリーズのチャンピオンの座に就いている。つまり、準プレーオフ、プレーオフ、韓国シリーズと勢いがつけば、約26%の割合で王者もひっくり返るわけである。『1位チームが可哀想』ではなく、ここは素直に『野球って面白い』と言い切ってしまおうではないか。

そんな韓国プロ野球の今シーズンのポストシーズンは、4位チーム韓火イーグルス対3位チームSKワイバーンズが5回戦制の準プレーオフを戦い、その勝者が2位チーム斗山ベアーズと5回戦制(3勝で勝ち抜け)のプレーオフを戦い、ペナントレース1位チーム三星ライオンズとの韓国シリーズに挑む。筆者はベアーズを応援しているが、侮れないのが3位のSKワイバーンズである。
SKワイバーンズの本拠地はインチョン。そう、国際空港やインチョン上陸作戦などで有名な港町インチョンである。そして韓国で初めて野球が伝来された土地でもある。1905年、YMCAの宣教師が野球を伝えて今年でちょうど100年目。韓国プロ野球及び、国家代表チームのユニフォームには韓国野球100周年のパッチが縫い付けられている。以前の『キムチとバット』でも紹介したが、SKワイバーンズは、2000年にサンバンウルレイダースを財閥の鮮京グループが買収し、本拠地を全州からインチョンに移して誕生したチームであるのでチームの歴史は浅い。サンバンウルの歴史を足しても1991年のエキスパンションチームであるので14年に過ぎない。しかしながら、SKワイバーンズでも独自のインチョン野球100周年記念マークを作成し、チームの出版物などに使われている。今年は球都の誇りを賭けたシーズンであると言う訳である。強引であるが、何でも良いからチームの成績と観客動員に渇を入れるというフロントの気合は評価したい。

このチームの売りは、何と言っても、韓国一の素晴らしい施設を誇る文鶴(ムナク)野球場である。内外野ともに美しい天然芝が敷かれ、郊外の緑に囲まれた、グリーンスタジアム神戸のような球場である。30,480人収容のスタンドは3層式で、一階席のネット裏指定席はテーブル付き、二階席との間にはスイートルームが設けられ、個室を借り切って野球を見ながら食事をしてソファでくつろげるスペースとなっている。日本の球場でも文鶴野球場の施設には勝てていないところが多い。実力はともかく、球場は韓国一である。
この球場での思い出は、2004年の9月4日。筆者が対ロッテジャイアンツのナイトゲームを見に行ったときのこと。ロッテジャイアンツの7番レフトで先発出場していた若い外野手が5回裏の守備から引っ込んだ。その時は過去の二打席の内容が良くなかったことによる交代だと思っていたのだが、翌日の新聞を見たら、兵役逃れの容疑で警察に連行されたことによる交代だったのだ。今、思い返せば試合の途中でパトカーのサイレン音らしきものを確かに聞いた。文鶴野球場は幹線道路の近くとはいえ、車の音はあまり聞こえないので変だとは思っていたが、試合中に警察に選手が連行されるというのは想像の範囲を超えていた。

話は逸れてしまったが、ワイバーンズの話題に戻ろう。

戦力はどうかというと、実力派の選手が揃う。投手力、守備力、打撃力とも、各部門のリーダーに輝く選手はなく、ペナントレースをぶっちぎる強さはないもののバランスが取れている。今年の新戦力としては、LGツインズからFA移籍したキム・ジェヒョン外野手と同じく起亜タイガースからFA移籍のパク・ジェホン外野手。二人が入っておかげで粘りのある攻撃力が備わり、前半戦は苦戦したものの、シーズン後半は11連勝を含む快進撃を見せ、最終戦に敗れて2位の座を斗山に譲ったものの堂々のプレーオフ進出である。2003年は4位ながら準プレーオフ、プレーオフと快進撃を見せ、韓国シリーズでは最終第7戦までペナントレース1位の現代ユニコーンズを苦しめた。勢いに乗ったら止まらない。それがワイバーンズである。球都インチョンの秋は熱くなるのか。文鶴野球場に勝利の『沿岸埠頭』(前回レポート参照)の歌声が響き渡るのか。注目である。

<文鶴野球場アゴ、アシetc.メモ>
ソウルからだと地下鉄一号線でインチョン行きに乗って、延々と約一時間揺られるとプピョン駅に着く。ここでインチョン市営地下鉄に乗り換えて約15分、文鶴運動場駅で下車する。乗換えが面倒だという人はソウル駅から市外バス(座席バス)に乗ってインチョン高速バスターミナルまで行くと良い。料金は3,500ウォン。ここから地下鉄で一駅であるが、私は歩いて行った。バスターミナルから球場が見えているくらいの距離である。球場がだんだん大きく見えてくるにつれて胸が高鳴って早足になるのも楽しいものだ。ワールドカップ競技場と並んで建っている姿は、神戸のユニバー競技場とグリーンスタジアムと似ている。地下鉄の駅のエスカレーターを上がるとチキンや飲み物を売る露店が出ていることもある。
野球観戦に欠かせないのが食べ物。トッポッキ、焼き鳥(当然、味付けは唐辛子)、ポンテギ、おでんなどの韓国屋台メニューが一通り揃っているが、ファストフードチェーン『パパイス』のチキンも味わうことができる。また、スカイボックスと呼ばれる二階席スタンド下のスイートルームの並びにある『ドリームフィールド』という名前のレストランは食事をしながら野球観戦が出来る。一塁側内野応援席のすぐ上なので、料理に舌鼓を打ちながらもしっかり試合にも盛り上がれること請け合いである。ネット裏のテーブル付き指定席(15,000ウォン)では、座席にマグネットで『ドリームフィールド』と『パパイス』のメニューが貼ってある。携帯電話で注文すれば座席まで届けてくれる。韓国語でオーダーする自信があれば、ちょっとした贅沢を味わえること間違いない。
ナイターにビールは欠かせない。売り子が生ビールのタンクを背負って売りに来るのだが、ネット裏指定席エリアには売りに来ない。どうしても飲みたい誘惑に駆られたら一般席との境の柵から大声で呼んでみよう。一杯2,500ウォンはソウル・チャムシル野球場より500ウォン安い。
キャラクターグッズの売店はまぁまぁ合格点。対戦相手の商品は置いていないが、ワイバーンズのTシャツに帽子にサインボール、キーホルダーなどの定番商品が並ぶ。お薦めは選手用ユニフォーム(35,000ウォン)。素材や胸のチームロゴは選手用だけあって刺繍も豪華。背中には選手名がなく、背番号だけが刺繍ではなくアイロンプリントされているだけであるが、袖にハイトビール(ハイトはSKグループである)のスポンサー広告まで入っている。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2005-10-10

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